大したことのない話

脳みそに詰まったゴミを吐き出しておく場所

カタシロめいたTPRGリプレイ IN_CA■E 【2】1日目 ②

■登場人物
・邪悪な心を持つ幼き弱き竜・純(純)
 大学生。事故に遭って、気が付いたら黒い部屋に寝ていた
・カタシロ(カ)
 医者。表面に顔文字を表示する仮面をつけている

 

純:簡単な質問、ですか
カ:というよりは、正解がない、と言った方がいいね
カ:カレーとシチューはどちらがおいしいか、みたいな問いかけさ
純:ば、馬鹿な・・・カレーでしょ満場一致で
カ:・・・人によるでしょ、それは。例えが悪かったのは認めるけど
純:それで?点Pの動く速度でも求めればいいんですか?

 

俺への返事もせずにタブレットをカタシロが操作すると、文字が液晶テレビに映し出される。

問1

あなたは目が覚めると、腕に赤い液体の流れるチューブが刺さっており、それは隣の老人の腕へとつながっていた。
医師によれば隣にいるのは世界的に有名なヴァイオリニストであるという。
治療にはあなたからの輸血を常に必要とする大病にかかっており、言い換えればチューブを抜けばすぐにでも死んでしまう状態にある。
医師はヴァイオリニストの熱狂的なファンであり、一方的にあなたを拉致して治療を開始した。
あなたは、彼が治療を完了するまでの約9か月を病院で過ごすか、チューブを引き抜き治療を止めるかの二択を選択できる。

尚、この9か月の間、インターネットやゲームと言ったあなたを満足させる娯楽は一切なく、会話の相手は医師のみ、そしてベッドの上から動くことも許されない。
また、チューブを抜くことへの後遺症は存在せず、治療後の報酬は存在しない。
治療後に医師とヴァイオリニストが君の目の前に現れることは、二度とない。

 

カ:言った通り、この問いに正解はない
カ:内容によって君の治療や処遇に何らかの影響を与えることも、ない
カ:二択を無視して、チューブを使ってヴァイオリニストの首を絞めて殺してもいい
純:わぁ~サイコパスぅ~

 

・・・じゃあ、何のために聞かれてるんだ?
記憶、あるいは人格に問題がないか、だったか?
そりゃあ、事故に遭ったって言うのはショックだったが、正直正気を保てている自信はある。
だから、ぱっと思いついた答えをそのまま言えばいい、ってことだよな・・・?

 

カ:何か質問はあるかな?
純:その、一つだけいいですか
カ:もちろん
純:医師は、美人のおねーちゃんだったりします?
カ:それは医師との関係性から、得られるものがあるか。そういうことだね?
純:はい。あわよくば美人の女医に、罪悪感からあれやこれしてもらってですね・・・
カ:あー・・・じゃあ、それは君の努力次第だとしたら?
純:自主的にヌイてくれないんすか?仮にも医者でしょ?9か月も放置はやばない?
カ:🤢
カ:わかった、君の理想の30歳の美人女医、と言うことにしよう
  君が熱心に愛を語れば、多少は心を開くかもしれないね
  ただしそれで治療を止めることも早めることも、環境が改善することもない
純:なるほど

 

クソ!我ながら何が「なるほど」だ、反吐が出るぜ。
『治療後に医師とヴァイオリニストが君の目の前に現れることは、二度とない』ってことは、よく考えたら9か月後にはその美人と会えなくなるってことじゃないか?
愛したのに?いやw、そっちの方がツラくない?

 

純:答えは決まってます
カ:では聞こうか
純:・・・そのヴァイオリニストを見捨てて、いや見殺しにして逃げます
カ:理由を聞こう
純:とどのつまり、俺には関係のない話だからなぁと
  仮にその相手が古今東西最強の芸術家で、2年後に世界を救うとしても
  俺からしてみれば死ぬほど退屈な9か月を支払うほどの価値を見出せない

 

9か月だぞ?家に積んでたガンプラでも持ち込めるならまだしも、そうでないなら持て余すだけだしな・・・
つか、大学3年で9か月休んだら、もう留年確定じゃね?
大学窓口で「芸術のために血を流しました」とか言ったところで単位貰えないし、それで留年したら親からも絶対許されないよな・・・
貰った内定もパァ、ですわ。

 

カ:もしかしたらヴァイオリニストの演奏が、君を救うかもしれないとしても?
純:ま、そうっすね。近々でメリットないっすから。せめて1億ほしい
カ:はは、十分よくわかったよ。すごく興味深い答えだ
純:そうですか?月並みだと思いますけど
カ:ちなみに君自身がヴァイオリニストだった時、君は輸血を受け取るかい?
純:まあ、死にたくないんで、できれば協力してほしいですね
カ:清々しいね。君のよう輸血を断られたら、君は怒るのかでいうと?
純:・・・・・いやーーー・・・・怒らないんじゃないかな。諦めると思います
  自分でもやりたくないことを他人に期待はしない、かなぁ?
カ:うんうん、理解できるよ。君は自分に対しても他人に対しても、公平だね

 

相手が誰でもスタンスが変わらないなら、公平っちゃ公平か。
自分じゃあジコチューすぎるかと思ったくらいだけど。
カタシロは持っていたタブレットを閉じて片手に抱えると、面に😁の文字を表示する。

 

カ:うん、今日の検査はこれで終了としよう
純:すると、この後は俺は何をすればいいんです?
カ:君はこれまで寝たきりだったんだ、きっとすぐに眠くなるよ
  というか、無理をして起きてようとはしないでくれ。治療が無駄になる
純:ご飯は?
カ:君は内臓もボロボロだからね、冷蔵庫にある栄養ドリンクで摂取してくれ

 

カタシロは足元にある白い箱のドアを開ける。
中にはラベルの付いていない、黄色い液体が入ったペットボトルがずらりと並んでいた。

 

カ:デカビタ味だ。気に入ると思ってね
純:俺の好みまでリサーチ済みってわけですか
カ:他に質問がなければ私は次の患者のところに行くが、どうかな
純:俺の着せられてるピチピチのスーツは何なんですか。排泄口もないんですけど
カ:このドリンクの吸収率は100%、つまり飲んだところで排泄は行われない
  仮に漏らしたとしても、いつも通り私がケツを拭くだけだ
  それが嫌だというならここに着替えがある。気に入るといいが

 

そう言ってカタシロがキャビネットを開けると、薄緑色の作務衣のような服、いわゆる患者衣が入っていた。

 

純:クソができないより百倍マシですね
カ:そうか、じゃあ私は行くよ。また明日

 

そう言ってカタシロは部屋のドアを開けて、廊下へと出て行ってしまった。
俺はドアが完全に閉まったのを見て、何より先にそのドアに近寄る。
ノブは回せるが、どうやら施錠されているのかドアは開かない。
まさかとは思うが、閉じ込められているのか?
軽くノックすると、鉄の塊でも叩いているかのような、ゴンゴンという重く低い音が響くだけだ。

 

純:誰かいないかー?部屋から出てみたいんだけどー!

 

返事はない。何度か叫んでみても、それは変わらなかった。
・・・本当にここは病院なのか?ナースコールはないのか?
それに部屋がホテルみたいな作りなのは、何故だ?
明日にでも、カタシロに聞いてみるしかないか。
答えが返ってくる保証はないが、今考えたところでわかるわけないしな。

そう自分に言い聞かせて着替えようとした、その時だった。


ジリリリリリ


けたたましい音を吐き出しているのは、ベッドのそばに備えられた、ダイヤルのない電話だった。

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