大したことのない話

脳みそに詰まったゴミを吐き出しておく場所

カタシロめいたTPRGリプレイ IN_CA■E 【8】3日目 ②

問3

とある5人の探検隊は、突如起きた地滑りにより探検していた洞窟に閉じ込められてしまった。
辛うじて外との通信はできたものの、残っている食料を鑑みると、救助が来るまでには全員が飢え死にしてしまう。
彼らは全員で、一人を殺しその肉を食べることで生き延びようと合意に至り、犠牲者を決める方法は公正にサイコロの出目の大きさで決めることになった。

救助後、生還者は死亡した探検隊の殺人の罪に問われることとなり、高等裁判所では現行の刑法に「他者を殺害し、食べた場合は死刑である」定められている通り、死刑判決が出た。
世間はその判決に対してこぞって批判の声を上げ、生還者を擁護した。
そして弁護士は最高裁へと控訴を行うことになる。

あなたは、最高裁の5人の判事の一人です。
既に2人は有罪、もう2人が無罪と判決を出しています。
あなたは以下のいずれかを選ぶことができます
どれを判決として、選択しますか?

有罪、つまり死刑判決
無罪、つまり罪に問わない
忌避、つまり判決を放棄



そういうことかよ、クソッ!
こんなの帝京大学で学べる幅広い学問の中に答えなんてないぞ!

純:・・・・・・あーだりぃ
カ:君が、答えるんだ
純:そういうことかい、はー!
カ:そう気負うことはない、ただの思考実験だと思ってくれればいい
  君が聞きたいことがあるなら、答えよう
純:なら聞きますがね・・・

とは言え、この場合、何を聞けばいい?
判断に必要な情報だ。
例えば、サイコロを利用した計画殺人だったなら問答無用で死刑だと俺は思っているわけだから、恣意的な殺人だったのかを聞けばいい。

純:・・・公正な手段と言ってるが、どこまでそれは信用できるんです?
カ:探検隊はデジタルカメラに一連の出来事を記録していたんだ
  その映像から、イカサマの類は起きていないと立証はされている

戦わなければ生き残れないデスゲームめいた、胸糞悪い事件だってことには変わらないわけだ。
なら、回答は避けるのはどうだ?
俺は、ただ生きるために他者を殺す是非を、そもそも答えたくない。
帝京魂でも解決できないことがある。
そういうことはQuizKnockのメンバーかひろゆきにでも答えてもろて。

純:もう一つ。回答を放棄した場合はどうなる?
  もっとふさわしい人間に代わりに答えさせる、ってのはダメすか
カ:忌避と同じで、4人で判決の決を採ることになるね
  最高裁判決は有罪2無罪2、つまり結論なしとなって
  高裁で出た「死刑」が適用されることになる

前言撤回、じゃあ放棄ってのはないわなー!
逃げた挙句、人を殺して拾った命を路上の露にするのは、あまりにダサすぎる。

純:ッケーイ・・・「有罪」!
カ:・・・理由は?
純:法律で決まってんでしょ、結局
カ:これはまた、随分と、スパッと決めたね

カタシロはタブレットもどこかに仕舞って、興味深そうに手を組み、親指同志をくるくると回しながら、こちらを凝視する。
俺は何でか画面から目をそらすこともできないのになぁ。

純:俺の知っている格言にこんなものがある
  『どうしてイレギュラーは発生するんだろう』
  俺の答えだがな、イレギュラーってのは一度認めると次から次へと湧くんだよ
  悪党ってのは文と文の間の隙間をいいように利用するもんだ
カ:なるほど、理解できるよ

そう言ってカタシロは組んでいた指を解き、両手の人差し指で仮面のこめかみに当たる位置を押さえた。
一切表情のない仮面の癖に、なぜか笑顔を浮かべているような、そんな気がした。

カ:条件を更新しよう

問3ー2

5人の探検隊は、突如起きた地滑りにより、探検していた《《セントロイド国立公園内にある》》洞窟に閉じ込められてしまった。
辛うじて外との通信はできたものの、残っている食料を鑑みると、救助が来るまでには全員が飢え死にしてしまう。
彼らは全員で、一人を殺しその肉を食べることで生き延びようと合意に至り、犠牲者を決める方法は公正にサイコロの出目の大きさで決めることになった。

しかし、救助活動は遅れてしまい、生存者たちは一人、また一人と犠牲者を決めていく。
最後までその肉を食べて生き延びたのはたった一人、洞窟のツアーを企画した「ジョアン・ジョコモ」と言う小児科医だけだった。

救助後、ジョコモは死亡した探検隊の殺人の罪に問われることとなり、高等裁判所では現行の刑法に「他者を殺害し、食べた場合は死刑である」定められている通り、死刑判決が出た。
世間はその判決に対してこぞって批判の声を上げ、ジョコモを擁護した。
そして弁護士は最高裁へと控訴を行うことになる。

あなたは、最高裁の5人の判事の一人です。
既に2人は有罪、もう2人が無罪と判決を出しています。
あなたは以下のいずれかを選ぶことができます
どれを判決として、選択しますか?

有罪、つまり死刑判決
無罪、つまり罪に問わない
忌避、つまり判決を放棄




最初の時点で、昨日ジョコモについてカタシロが言っていたことを思い出すべきだったんだ。

――5人に一つずつケーキを送ろうとしてプレゼントの箱に詰めた
――しかしその日の夜に机の脚にガタが来て、箱の4つが机から落ちた
――もちろん、ケーキは一人しか食べられない、みたいな話さ

洞窟探検隊の話と一致するじゃねーか!

純:最終的に、あのジョコモが自分以外の4人を殺した・・・?
カ:それは、事実だ

事実、つまりここからは思考実験でも何でもないってことだ。
へ、へへへへ・・・、恐怖で震えが止まらないぜ。

純:・・・地滑りは本当に事故だったんですよね?
カ:そうだね。同じ洞窟を事故の前日まで別件で専門家が訪れていた
  その時は問題はなかったという
  原因は、当時発生した地震だったんだ

あくまできっかけは偶然、か。

純:ジョコモは、この記憶の記憶がないんすか?
カ:本人は、事故の直前までの記憶しかないと、そう言っている
純:医者で、探検隊・・・
カ:探検隊というが、実際にはガイドを含め彼の友人一行だったんだ
  元々高裁が酌量しなかったのは、被告が小児科医であり
  親しい友人を殺害したのは、道義に反する、と言うのも理由だったんだよ
純:それで暗闇を異常に怖がったのか。自分で友人を手に掛けたわけだから
カ:記憶はなくても、本能で恐怖を感じているんだろう
  彼が事件以前に暗所恐怖症だったという記録はないからね

あの怯えようが演技だとは思えない以上、殺すのは本当に嫌で嫌で仕方なかったんじゃないか?
ただ、邪魔者を殺したってだけなら暗所恐怖症にならないだろうし、仮に演技だとしたら、もはや役者ってレベルじゃないと思う。

純:もう一ついいすか?
カ:どうぞ
純:サイコロって方法を決めたのは、ジョコモだったんです?
カ:いや、別の人間だったよ
  彼は、むしろ誰かを殺してまで生き延びる決断を拒んでいた
純:医者ってそう言うこと言いそうだな・・・
  で、パニックホラーだと化物に殺されがち

ジョコモが最後まで拒絶した、と言うのは俺の中の彼への印象とも一致する。
俺への態度と言い、子供への態度と言い、優しい人間なんだろうな
それに、事の発端が仮にジョコモだとしても、あくまで偶然、天災だ。
それを理由に責任がある、とは言えないよ。

純:もしかして、俺の出した判決がそのまま現実に反映される、なんてない?
カ:そんなことはしないよ。君は判事でも何でもないんだから
  これも、ただの検査の延長だ

先ほど出した回答は「有罪」、それは「そう言うルールだから」という、自分の意思なく決まった何かに従って出した答えだ。
今のところ、ジョコモに対する嫌悪感は、あまりない。
正直、個人的にジョコモに後ろ指を指すかと言えば、そんなことはない。
仮に自分が本当に判事だとして、知り合いの生き死にを決めるとして、嫌いでもない人間を殺す一票を投じることは、できない。

純:じゃあ、無罪かな・・・
カ:理由を聞こうか
純:声だけでも知っている人間を、自分の手で殺すみたいな真似、できないっすわ
カ:彼に、命を奪われた相手もいるわけだけど
純:そりゃ遺族は悲しいでしょうけどねえ・・・
カ:中には、サイコロで決まった運命を拒んだ結果、
  取り押さえられて殺された人間もいたんだ
純:当の本人はお互い合意したんでしょ?
  自分も殺して生き延びようとしたんだから、そこはノーサイドですよ
カ:ノーサイド、ね
純:あんだけトラウマになってんだし、正直、そこまで責められる謂れないかなって
カ:彼だけに罪があるわけではない、そういうことだね
純:そ。あとは、俺が同じ立場になったら無罪にしてほしいからかな
カ:なるほど、腑に落ちたよ

カタシロは満足そうに頷き、立ち上がる。

純:先生、これ以上は流石にうんざりっすよ
  ただでさえこっちは、素知らぬ顔で殺人者と話してたって事実にビビってるんだ
  もうさ、退院でよくね?
カ:そうだね。必要な答えは十分に得られたと思う
  君はここでの記憶は無くして、元の生活に戻ることになる
  それでいいかな?
純:へいへい、望むところだね
カ:なるほど。ただ一応、聞こうと思っていたんだ。正直に答えてほしい

カタシロはそう言うと、指をパチンと鳴らした。
ゆっくりとドアが開く。
しかし、そこにはかつて見た廊下とは違う、真っ黒な空間が広がっている。
そこには光もなく、ただただ無が広がっていると感覚で察した。
・・・黒って200種類あんねん、だったか?

カタシロは画面の前、ちょうど真ん中の辺りに立つ。
広げた両手の先には、二つの選択肢が表示されていた。

カ:君には二つの選択肢がある
  一、君に起きた事故とここにいる理由を知った上で、ジョコモに判決を下す
  二、このまま彼は無罪にしたいという意思を変えずに、ここから出ていく
  君は、どうしたい?

・・・せめて馬鹿にするように笑ってくれていれば、今すぐにここから逃げ出すのに。

<<前<目次>次>>