大したことのない話

脳みそに詰まったゴミを吐き出しておく場所

カタシロめいたTPRGリプレイ IN_CA■E 【3】1日目 ③

■登場人物
・邪悪な心を持つ幼き弱き竜・純(純)
 大学生。事故に遭って、気が付いたら黒い部屋に寝ていた
・カタシロ(カ)
 医者。表面に顔文字を表示する仮面をつけている

鳴りやまない電話。
仕方なく、受話器を持ち上げる。

純:もしもし
男:もしもし、こちらの声は聞こえているだろうか?

男の声だ。ややノイズが混ざっている。

純:聞こえてますよ~
男:おい、聞こえないのか?おい、聞こえたら何か言ってくれ
純:聞こえてるっつーの!これは、こっちの音がミュートになってる?
男:今度もか。なあ、そっちの部屋にテレビあるだろ
男:その下に、電源ボタンのついたキーボードがあるはずだ
男:電源をオンにしてを、テレビの画面にコンソールを立ち上げてくれ
純:あぁ?コンソールだ?


何だそれは。コンソメかラバーソールしか聞いたことないけども。


男:聞こえてるのか不安だが。仕方ない、歌を歌おう
男:せめて仕組みは理解してもらう
男:ん、んっん。びんわーきん、そーはー、あいむぱんちん、まいかー

受話器から変わらず、男が歌を歌う声が部屋中に響き渡る。
・・・音痴だ。
言われた通りにテレビ台を探すと、キーボードが出てきたので、そのまま果樹園の地図記号みたいなマークのボタンを押した。
テレビの右下の明かりがオレンジから黄色に変わり、黒い画面には白い文字が映し出されている。
正しくは歌っている歌詞が、現在進行形で行に分かれて英語で表示されていく。

☮July>>I'll hit the ceiling
☮July>>Or else I'll tear up this town

取りあえずキーボードで「Hello」と入力する。

▣June>>Hello
☮July>>サビ前とは、タイミングが悪い
☮July>>こちらの声は聞こえるか?
▣June>>Yes、あるいは、はい
☮July>>よし、話は通じそうだ

そう言うと、男のノイズ交じりの声は深いため息をついた。
基本的には男の音声と同時にテレビ画面にも文字が表示されるのだが、息や笑い声といった、どうやら言葉にならない音声は表示されないらしい。
まったく、なにがどう「よし」なんだ?

☮July>>私のことは『July』と呼んでくれ。君のことは『June』と呼ぶことにする
▣June>>よろしく、July。お前音痴だぞ
☮July>>随分なご挨拶で

一方的に決められてしまったことへの皮肉はきっちりと吐いておく。

▣June>>あんたもここに入院してるのか?
☮July>>ああ、手ひどい事故に遭った。思い出したくもない
☮July>>正しくは思い出せないんだがね

一応はこの病院の先輩に当たるらしい。
ならこの場所がどういう場所なのかも知っているのかもしれない。

▣June>>あんたは、出ようとは思わないんで?
▣June>>あのふざけた面の医者は信用できるのか?
▣June>>彼女はいる?年収は?出身大学は?
☮July>>待て待て、アンタばかり質問してずるいぞ
☮July>>私は9か月も待ったんだ、君のことも聞かせてくれ
▣June>>すいません、まだ混乱してて
☮July>>一つだけ答えるなら、そうだな
☮July>>ここは逗留するにはいい病院だ、医者の俺が言うんだから間違いない
▣June>>医者の不養生ってやつだ
☮July>>そうなるな。さてJune、君は仕事は何をしてるんだ?

正直に答えるべきか迷うな~・・・
今のところ落ち着いた口ぶりだが、この男が信用できるとはまだ限らない。
決めた。あくまで個人情報は伏せながらも、友好的な姿勢と一定の距離は保とう。

▣June>>日本の大学生です、
☮July>>私はスウェーデン人だ。なるほど、まだ若いんだね。私はもう40になるよ
▣June>>オッサンで草
☮July>>日本、というと、ガンダムを作ってる国だね
☮July>>ユニコーンガンダム、見に行ったことがあるよ
▣June>>何っ!?
☮July>>私の友人が日本人は全員ガンダムを見ていると言っていたが、君はどう?
▣June>>き、奇遇っすねぇー・・・ガンダムは好きですよ
▣June>>特にGガンダムってやつ。知らないと思いますけど
☮July>>あー・・・それって、スウェーデンのセーラー服着たガンダムが格闘する?
▣June>>そうそう!ノーベルガンダムって言うんすよ

つい、喜んでしまう。
正直ガンダムの中でも外伝的な扱いのGガンを知っているだけならまだしも、女性型の造形をしているノーベルガンダムまで知っているとは。
自分の好きなものを相手が知っているというだけで、多少なり心のガードが下がるわね。

☮July>>実物を見たことはないが、なんとなく知ってるよ
▣June>>惜しいな、画像を送ってやりたいくらいですわ
☮July>>そうしてほしいのはやまやまだが、そう言う機能はないみたいでね
☮July>>ああ、まずいな、そろそろ診察の時間だ
▣June>>何ッ!?
☮July>>今度また、そのノーベルガンダムについて教えてくれ
▣June>>もちろん!
☮July>>もう少し話したかったが、また明日にしよう。またこちらからかけるよ
☮July>>cmd  - logout July

お互いの年齢と出身国、ガンダムを知っていることしかわからなかった。
少なくとも「診察」があるってことは病院としての機能はあるらしい。
最後に俺は、明日Julyがチャットを見てくれることを祈って一文だけ添える。

▣June>>代わりに、歌ってた曲の名前、後で教えてください
▣June>>聞き覚えがあるけど名前を思い出せなくてもやもやする

俺はペットボトルに入っているまがまがしい黄色の栄養ドリンクを一気に飲み干すと、疲れがどっと出たのかベッドに倒れ込み、そのまま寝てしまった。


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