とある女性からの相談
Q
「ごめんね、まあちゃん」
ある日、幼稚園から帰った娘が、思いついたように私の顔を見て言ったんです。
おかしいとは思ったんです。
娘の顔は何かを悔やんでいるわけでも、怖がっているわけでもなかったから。
ただ、大好きな熊の人形で遊ぶ時のように、少しだけ面白そうに笑ってたんですよ。
私は、どうしたのって聞きました。
何か、悪いことしちゃったの?、そう聞いたかも。
娘は、「ごめんね、ごめんね」と、ただ謝り続けるだけなんです。
そのまま何事もなかったかのように洗面台に手を洗いに行く娘が、どうしても怖くて。
それからも娘は脈絡なく「ごめんね」と言うようになりました。
発作のように、唐突に。
ごめんね、ごめんね。時々、まあちゃんごめんね、って私を見て言うんです。
私が「どうして謝るの?」と問いただしてもキャッキャと笑うだけで意にも介さない。
幼稚園の先生に聞いてみたんです。
まあちゃんという友達が娘にいるんじゃないかって。
そしたら、園には一人も「ま」から始まる名前の子なんていないって言うんですよ。
「まあちゃん」と呼ばれている子も居ないって言うんです。
でもそれもよくあることで、大したことではないと、先生は言ってました。
イマジナリーフレンドやマイブームみたいなものだから、安心してください、って。
夫もそれを鵜呑みにして取り合ってもくれない。
それからも娘は取り憑かれたように私に謝るんです。
ごめんね、ごめんね。まあちゃん、まあちゃん。
ご飯を食べても、朝起きても、歯磨きが終わっても、何をやっても私を見て、ごめんね、ごめんねと謝るんです。
何度止めるように言っても全然聞こうとしないで、ニコニコしながら・・・
私、、、思い出したんです。
いや、最初からわかってたんです。
まあちゃんごめんね、って娘を通じて私に謝っているのが誰か。
中学の時に、私の友達が自殺したんです。
・・・私は当時・・・・いじめられてたんです。
偶々難しかったテストで高得点だったからって、カンニングしたとか先生と寝たって学年中で噂になって、誰も見向きもしてくれなくなって。
根も葉もない噂ですよ、偶々その単元だけは時位だったってだけなんですから。
ものを隠されたりもしょっちゅうでした。
先生たちは、自分がテストの内容を教えたと思われるのが嫌で、私のことを助けてもくれなかった。
それでも彼女だけは私と同じバドミントン部で、ダブルスのペアだったから、最後まで信じようとしてくれました。
遊んだりもしたし勉強会もした、最後まで信じられる親友だったんです。
でも結局、彼女も周りの同調圧力に負けて、私を無視するようになりました。
私とはペアは組めないと顧問先生に泣きついて、私とは絶交したと周りに言いふらしまし、距離を取るようになりました。
そして、その次の月に彼女は校舎の屋上から飛び降りて、自分から命を絶ちました。
・・・屋上に残された遺書代わりのノートには、私を裏切った後悔と、謝罪の言葉が書き殴られてました。
まあちゃんごめんね、って。
ダブルス失格だ、って。
何度も、何度も。
そう、まあちゃんは、私なんです。
最初っからそう。
由衣が、娘を通じて私に謝ってるんだって、気付いたんです。
・・・私こそ謝らないといけないのに。
彼女の死に蓋をして、私はここまで生きてきてしまった。忘れようとしてしまった。
だから、どうにかなりませんか?
私は、どうやって由衣に謝ったらいいの・・・?
A
それって「マーごめ」では?
By まーちゃん大学ごめんね学部教授 似てよし焼いてよしタカヨシ
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十物語 BBQするアカミミガメ
「お待たせ」
「あ、どうも・・・佐藤さんやざ?」
フランチャイズカフェの私の座る席の前に、ストレートの髪を伸ばした女性が座る。
手には一人分のマグカップが握られていた。
「ええ、私が佐藤聡子。あなたが・・・BBQするアカミミガメさんよね。よろしく」
自分が知りうる中で最も胡散臭い男である水樹が紹介してきたイベント「十物語」。
私を参加させたのも、目の前の彼女を紹介したのも、あの髪を固めた金の亡者だ。
ただ、イベントの常連であるという佐藤から事前に話を聞ける、というのはありがたかった。
・・・・そこまで、手のひらの上で転がされているともいえるが。
「あの、水樹さんとはどったご関係で?」
「ああ、アイツ?ただの新卒時代の同期よ。お互いもう、辞めちゃったけどね。ああそうそう、会で会った人に素性を聞くのは止めた方がいいわ。勝手に話してくれるのを聞く分にはいいけど、島岡がそう言うのを嫌がるの。『誰とも知らない相手から聞く空都市伝説になるのに、どこどこのだれだれさんから聞いたってわかってたら台無しだ』、とかなんとか言ってたっけ」
――自分で拡散するんだから、いくらでもぼやかせばいいのにね、と佐藤は肩をすくめた。
随分と慣れた口調だ、水樹の言っていた通り常連というのは間違いないらしい。
「島岡どんともオオトモですがや?」
佐藤は手元のコーヒーを一口飲むと、窓の外のテラス席を眺めた。
当然ながらそこに私はいない。
「友達って程じゃないわ。ここでだけの付き合いだから、取引相手に近いの。正体不明のライターの素顔は、私も知らないわ」
こちらに向き直り口元に静かな笑みをたたえた彼女は、少しだけ自慢気な口調で続けた。
「ただこれは秘密にしておいてほしいんだけど、私はこの十物語の立ち上げにも関わってる。そう言う意味では、島岡のことは良く知ってると言ってもいいかもね。貴方のことは・・・聞かないでおいてあげる。どうせもう会うこともないでしょうし」
その後は、会の流れを簡単に佐藤は説明した。
ハウススタジオを借りて行われる座談会。
全員が持ち寄った何の気なしの不思議な話に尾ひれをつけて都市伝説にする。
それを10回繰り返したら会は終わり。
そこまで話すと、佐藤はトイレへと席を立った。
要はホラ話をみんなで作って遊ぶ会なのだが、主催の島岡はアルファツイッタラーというやつで、そこで作られた都市伝説はまるでさもどこかの地方で当たり前のように語り継がれた歴史があるかのように広まるのだという。
ふとテラスの向こう側に店内に客の視線が集まっていることに気付き、同じくそちらを見る。
そこには、典型的な地雷系ファッションに身を包んだけだるそうな表情の少女が、大きな麻袋を引きずって歩いていた。
それだけでも目立つのだが・・・袋の中身がじたばたと暴れているのだ。
時折立ち止まっては暴れるのを落ち着くまで袋の上に座って、立ち上がってまた歩いてを繰り返し、どこかへ去っていった彼女だったが、暫くして元来た道を今度は手ぶらで戻ってきた。
「お待たせ、トイレ混んでて・・・って何?窓の外に何かあった?」
戻ってきた佐藤は、窓の外の少女を目で追っていた私の前で手を振った。
「あ、いや・・・」
言いかけて口をつぐむ。
説明の仕方が見つからなかったからだ。
佐藤はきょとんとしつつも、そのまま席に着くことなく、手荷物をまとめ始めた。
「そう?じゃあそろそろ行こうか。時間も近いし」
会計を持った佐藤に礼を言い、指定されたハウススタジオの近くまで来て、私は目を疑った。
門の前に立っていたのは、あの暴れ袋を引きずっていた地雷系の彼女だったのだ。
佐藤は慣れた様子で、「こんにちは」と話しかけたので、私はその後ろに隠れるように立った。
「佐藤聡子と、こっちはBBQするアカミミガメさん。私たちが入るまではまだ待つようですか?」
彼女は両手の人差し指で角と角を挟んだタブレットをくるくると回しながら、ダルそうな顔を佐藤に向ける。
「なう、ろーでぃんぐというやーつです」
「トラブルじゃないですよね?」
「予定外れるけど開催はするよ、あーしはダルそうにそう言った」
欠伸をしながら彼女はそう言うと、こちらを無視するようにタブレットの画面を大層つまらなそうにいじくる。
「こういうこともあるから、少し待ちましょうか」と、佐藤もスマホを取り出してSNSの海へとダイブしてしまった。
手持無沙汰になった私は、地雷系の彼女にオズオズと尋ねた。
「あの、さっき、袋に何か入れて歩いとったんは、なんなら・・・?」
彼女はタブレットから目を外すことすらせずに、吐き捨てるように言うのだった。
「でんもべーにぼられたくねんなら、だーっとりゃんせ、がっちらごん」
「継続は力なり」私の嫌いな言葉です
「ほら、継続は力なり、って言うじゃん?」
偏見だが、そう言っている人間の大半は以下に分類される。
①好きなことをやっているため根本的には最初から辛いと思っていない
②辛いと思っても思考停止して続けるうちに慣れた
③辛いとかいう感情以前にそうするしかないという、現実逃避
④辛いと思ってやり続けた結果今も辛いが、同じ思いから逃げる他人が許せない
⑤とにかく退職を引き留めたい上司
最も幸福なのは、当然①だろう。
原体験至上主義、いわゆるキャプ翼の翼くん。
こういう奴が言い始めるとタチが悪い場合がチラホラ。
相手も自分と同じように、「好きだから始めたんじゃん。その時の気持ちを思い出せよ」と言うわけだ。
いや、お前は買ったからそう言っているのであって。
勝ってなくても今の現状に満足しているのであって。
今に満足していないし、これからも満足するわけもない、はっきり言って「そうするしかなかった」俺に言われても困るわけだ。
次に幸福なのは②。
感覚がマヒして、「もう辛くない」ケース。
こいつらの言っていることは「要は慣れ」「住めば都」と同じだ。
しかも、「まー俺も仕方なくやってるけどね」みたいなスタンスでいるから、難なく続けられはしたという幸運に気付いていない。
何なら俺も苦労したんだぜ?みたいな顔をしてくる。
こいつらははっきり言ってあなたの味方ではないので、注意。
見てられないのが③だ。
これも、他に任せられる人がいないから、というパターンと、他にスキルがないから、というパターンの二つに分かれる。
前者は悲劇だ。
後進の育成をしようにもできるような環境を手配されていただろうか。
「俺の背中を見ろよ」とだんまりを決めて弟子を使い潰すだけの馬鹿は論外だが、誰も手を突っ込みたがらないどぶに浸かり続けた結果がこれではあんまりではないだろうか。
後者もまた悲劇だろう。
他のスキルを培うほどの時間がないほど使い倒されていたならどうしようというのか。
もちろんどこかで何かをさぼったツケが回ってきたのなら、自業自得と言う他ないが。
何はともあれ、彼らは多少なりとも自分たちの立つ位置が薄暗いことを知っている。
ゆえに必死にごまかして、似非の電飾で「頑張れば報われる」と飾り付けるのだ。
尻尾の腐ったチョウチンアンコウみたいだね。
④については、もはや亡霊に近しいだろう。
要は俺と同じ目に遭えよ、と言いいたいだけなのだ。
あなたが頑張っても報われと知っているが、少なくとも自分は足抜け出来る。
だから、「頑張れ❤頑張れ❤」とエールを送る。
あるいは愛の鞭という名のただの鞭を振り回すのだ。
こういう輩に贈る言葉があればたった一つだ。
「でも先輩は幸せそうに見えないっすけどね」
⑤については基本的にものを言うオモチャだ。
よって、人間にカウントされない。以上。
あなたが会社を辞めて彼の家族が路頭に迷っても、あなたは悪くない。
少なくともあなたが路頭に迷ってもあなたの上司は助けてくれませんよ。
どんなに優しそうなツラしていても結局他人、というか路頭に迷うとか、仕事が回らないとか、親兄弟ですら見捨てるのが普通だ。
触らぬ神に祟りなしと言うが、相手がオモチャなら尚更のこと。
「苦しいけど頑張って続けました」なんて本気で嘯いている奴がこの世にいるわけはないのです。
支えてくれる誰かやら、元からなんとかなる才能があるだとか、そういうポジティブな、まあなんとかなるやろという自身の源がある連中が、たまたま風邪をひきました辛いです、みたいなことでしかないのだ。
ネガティブ、自信がない、アーもう死にたい、なんて人は、しれっと頑張らなくても続けられていることを探しましょうよ。
生き吸って、吐いて、レシピを見ずにカレーが作れたら、あなたはきっとカレー屋さんに向いてますよ。
そうでない人は、レシピを見ずにカレーを作ってみてください。
どう作ったって旨いんだから、カレーなんて。
それができたら「始める勇気」も持っているってことで、【特技・趣味】のところに書いていいと思いますよ。
で、あーしが継続するのが好きかという話だが、でぇっ嫌いだね。
始める方がまだマシ。
あっ、大病院占拠面白かったです。
シン・ウルトラマンは見てません。ダァッ!
汁物語②
あたすからもいっごええがね、島岡どん?
何か?
この「一問一答」。すなおにでんと答える気はねんです。だから、とらっせしてくれねか?
スキップはダメです。答えたくなくても、質問は出してもらいます。
無駄やざ
そうでもないですよ。例えば「あなたはカレーは好きですか」という質問にも答えられませんか?
それは・・・好きやけど・・・
ただそれを聞いた誰かは、「カレーの髪があなたに与えた試練だ」と言うこともできるわけです。大分飛躍ですが。だから、あなたが答えたくなければ答えなくていいが、何の質問に答えなかったのかという尾ひれのヒントはもらいたいんです。
・・・わかった。さっさと終わらせよ。
一問一答
あなたは、このスープのおいしさの正体を知っている?
答えない
これ、ドレッシングにしてもおいしいのかしら。私、サラダに掛けて食べてみたくて!
知らんて!
貴方自身は料理はされるんですよね。特異な料理は?
からいもねったぼ
ビーフ・オア・チキン?
ちきん
その訛はわざとですよね?エピソードトークはすらすらと標準語で話されてましたから。
・・・でん、こばしとるやがっちゃ。せんど、こわいからやな。
さっきのスープ、アカミミガメさんは広めたいとは思わないってことですよね?あんなに旨いのに。
広めてはいけない、と思ってる。
ちなみにさ、俺もう一杯貰いたいんだけど、出汁の元とかもらえたりしない?
ほげなこと!あんた、がっちらごんね!なんきいとん!?
(・・・「がっちらごん」?)
えー自分が最後っすか?wwまじかーw悩むなぁwww絶対鉄神屋のあじだったもんなぁwwwじゃあ俺もすでに怪奇現象の登場人物ってことじゃんwwwわはww草wwwじゃあじゃあ巻島って地名に聞き覚えあります?www
・・・いや、いや、嫌、イヤ!
ちょwwwおまwwwまんさん反応しすぎワロタwww感度良好で草wwwwちいかわみてぇww
私は・・・私は行ってない!行ってないし、知らない!
どう考えても知ってるリアクションなんだよなぁwwww
――島岡氏の、遮るような「それでは語り継いでくれる方だけ、行燈の電気を残してください」という合図で、一つ、また一つと明かりが消えていく。
残った灯りは、たったの1つ。
脚色① 摘みたて兄さん
ンま、結論はでてますなwwwはっきり言って、「神屋系」の味と、のれん分けの秘密がこれ、っつーことっしょォ!www
そもそも小生ずっと疑問だったんですなぁwww鉄神屋は確かに「神屋系」最古参にして筆頭ではあるものの、自分で広めたとは一度も言っていないwwけど同じ味が広まりを見せているゥ~~~www
つまり、出汁の材料の販売元こそが「神屋系」の黒幕ンゴねwww要は同じ「うまあじ」で飛ぶように売れるようにしてやるから、「神屋」を名乗って、一大勢力になるンゴと誘われたのだwww俺は詳しいんだwww
で、「神屋系」を広める理由は単純明快www味に病みつきになっちまって、結果「神屋系」を崇め奉ることになるっしょwwwそうでなくてもお金は入って出汁神様を崇め奉れるっつーわけwwつまり、マジ神っつーことでおkwww宗教関係はNGwwwwww
拉麵には~wwそれはそれはきれいな~ww神様が~wwいるんやで~www
幕間
どうでしょう、BBQをするアカミミガメさん。彼の提示した尾ひれはお気に召しましたか?
それは・・・その・・・
――彼の話は、当たらずとも遠からず、的を射かけている。
しかしだ、彼には悪いのだが、これではダメなのだ。
妙に現実味のある話だと、私たちのように誰かが真相を突き止めようとするかもしれない。
そしてその結果が悲劇的なことを、私は知っている。
ちょwおまww選択肢ないっしょ?wwwwだったら俺の考えた結論でいいじゃんwwwいいじゃんwwwスゲーじゃんwwww
そうでなければ、この話は真相のまま、ということになります。
別にそれでいいと思うけどなぁ?謎は謎のままってことだろ?
それだけは、ダメなんです・・・!
あー・・・じゃあその・・・今更なんですけど、自分からも一ついいですか?なんか、このままだと空気悪くなりそうだし。
なんだァ?てめぇ・・・
本当に今さらですね・・・ただ、開始2つ目でぎすぎすされるのも嫌ですし、摘みたて兄さんさんも誰かと戦って得た勝利の方がいいですよね?
おっ、そうだな
では、むちむちキムチさん、よろしくお願いします。忘れずに行燈の光を、灯してくださいね。
脚色②
多分、うまみの原因は、塩なんじゃないかって思うんです。
塩ってとりすぎると体に悪いけど、時々体が強烈に欲しがるじゃないですか。ほら、飲み過ぎた帰り道とか。つまり、人間に塩は本能的に必要だ、ってこと、これに目をつけた科学者、そしてそれを後援するマフィアがいたんです。
そして彼らは作ったんです。味・科学構成・見た目全てが塩だが、麻薬に匹敵する中毒性を持つというドラッグを。SHIOとでも言いましょうか。イイトコの塩だとかなんだとか言って、通常の塩より少しだけ高い値段で売りつけることで、その効能を実験していたんですよ、日本のラーメンと言う一度ハマったら何度も食べに来てもおかしくない文化の中でなら、「麻薬的に美味しい」なんて乾燥が出ても問題ないですからね。
そして一定の成果が見えた。だから、ラーメン以外にも手を出したんです。彼らの目的は・・・マフィアが薬物をさばくのと同じ、活動資金でしょうね。Q.E.D
選出
――むちむちキムチは話す間こちらを一度も見なかった。
少し前かがみになりながら、暗闇に隠れた全員を説得するかのように、真面目で淀みのない静かな口調で言い終えると、緊張の糸が切れたのか、ため息を一息ついた。
「ってことでどうすか」と付け加える彼は、恥ずかしそうにはにかんだ。
こちらを見て「えへへ」と笑う彼に、私はお礼を叫びたくて一杯だったが、ぐっとこらえて小さく頭を下げる。
これなら、筋は通る。
流石に塩を追いかけて「アレ」を見つける、ということはないだろう。
出揃いましたので、この「旨い汁」はどう語り継がれるべきか、BBQをするアカミミガメさんに決めていただきます。どうでしょうか、お気に召したのはどちらでしょうか?
眼鏡の人には悪いけんど、キムチさんの話がいいさ。
(´・ω・`)ウソダヨ・・・
理由を聞いても?
神様なんかよりもマフィアの方が、なんとなく現実味もあるし、手を出しにくいべ?
・・・・・ふむ、そういうことでしたか。それでは実物込みで面白い体験をさせてくれたBBQするアカミミガメさん、ありがとうございました。
――本当にこれでよかったのだろうか。
私は目を瞑り、思案する。
・・・多分、間違ってない、はずだ。
一方でこれが時間稼ぎでしかないこともわかっている。
だが、あの存在を外に漏らすわけにはいかない。
干からびた●●●と放置するだけで人間から「旨い」という感想を奪うのだ、私はあの未来も何も持たない破滅主義者ではないので、はっきり言ってアレが存るという現実に向き合う気に一切なれない。
今でさえ味覚の支配だけで済んではいるが、姿を見たらどうなることやら想像だにできないではないか。
触らぬ神に祟りなしとは言うが、まさにその通りだ。
いや、今こうして考えていることも、導かれたものなのかもしれない・・・
私はそっと、目を開けて、思考を閉じた。
あと8つ、目の前のことに集中するべきだ。
そうすれば、今は、今だけは考えずに済むから。
※ラーメンの神様とSHIOの画像はSatable Diffusionで作成しました。すごいぞAI。
汁物語①
汁物語
汁物
汁(スープ)を主体とした日本料理の総称。
特に飯と共に提供されるスープ料理を汁物と呼び、酒と共に提供される肴のスープ料理である吸物と区別する。
話の前に、とりあえず、これをどうぞやさ。
――私はリュックから取り出したタンブラーと紙コップを取り出し、まだ温かい黄金色の液体を一杯ずつ注ぐ。
全員に行き渡るようにするには紙コップの半分も入れられないが、この不可解な液体はこのくらいの量が適量なのかもしれない。
事前に毒見はしてますので、安心してお飲みください。旨いですよ。
――そう言って島岡を名乗る黒衣の人物は、仮面の横から伸ばしたストローで蚊のように啜った。
それを見て、場の板面々も恐る恐る口をつけていくが、すぐに顔を持ち上げる。
揃いも揃って、目を丸くしていた。
!?
これは・・・旨い!
旨いんだけど例えようがないというか・・・そんなことを言っているうちに口の中でふわっと溶けていくというか・・・
トぶぞ
へ~、お姉さんやるねぇwこれ神屋系筆頭「鉄神屋」の塩らぁめんのスープに使われてる鶏ガラ出汁っしょ?wwあ、スマソwww自分ラーメン詳しくてww実は「ぬ~どる亭麺吉」って名前でラーメンブログやってるんすよねww最近だとお笑いブログみたいに扱われてるけど一時期は麺仏にも昇格したんすよぉwwえご存じない?www
あ~・・・鶏ガラじゃのーねんな。
え、違うの?wwうっそでぇ~~いwwww拉麺警察出動しますぞww
これ、定食屋やってるツレが味噌汁に使い始めた昆布出汁さ。
言われてみればそうなのかも・・・?いや、ダメだ・・・思い出せない・・・
・・・本題に入るんね。この出汁についての話しやざ。
・・・
今皆さんに飲ませた昆布出汁、誰も味を言葉で表現できないし、思い出せないんです。
すごい旨い、ヤバい旨い、めがっさ旨い、Tasty、ハオチー、エトセトラ。
口にした全員がこの味を「旨い」と感じ、口をそろえてとにかく「旨い」と表現する。
辛いでも、コクがあるでも、アッサリでも、グルタミンやニアシン由来の「うま味」でもない。
だから端から見ている他人からするとどう「旨い」のかわからないし、レビューも「旨い」としか書けないか高評価もつかない。
ただ、この味は不思議なことに、どこどこの何で飲み食いした時に、というのは一発で思い出せるんですよ。
実際、私は最初にこの出汁を飲んだ時、西大阪のホテルで食べた鰹出汁を使ったスパゲティと同じ味だと感じました・・・昆布と鰹じゃ全然味も違うはずなのに。
だから、さっきそこの眼鏡の方が思い出した神屋系ラーメンと言うのも、もしかしたら同じ現象なのかもしれません。
鶏ガラ、昆布、鰹、全部材料も産地も違うのに感想は同じ「旨い」、ただそれだけ。
こんな不気味な話、ないでしょ?
私がこの話に尾ひれをつけたいのは、何でもいいからこの「旨い」味の理由が欲しかったから。どうか、お願いするさ。
――「ひとつよろしいですかな」と、雪野大福が手を挙げた。
島岡が「どうぞ」と無機質な機械音声を返すと、雪野大福は正座を正すと、少しだけ前のめりになって言った。
質問の前に皆さんに聞きたいことがあるんですが、全員この昆布出汁を飲んで「旨い」と思ったんですか?「辛い」とか「甘い」とかではなく?
――全員が首を縦に振る。「うま味」とも違う、と誰かが言った。
なるほど・・・では、この体験は全員にとって実在する怪奇現象ってことになりますよね。島岡さん、これは会の趣旨にも反してないですか?
ええ、大丈夫ですよ。リアルであれ何であれ、持ち込まれたエピソードに対してああだこうだ言うことが目的ですので。
――その言葉に、誰も異を唱えない。
他に質問がなければ、質問に入ります。
夢も希望もない
日の明かりに照らされ、傾いた地面
10m程離れて向かい合う、モッズコートの男。
その手には、日本刀。
その顔は影になって見えない。
俺は、片手に何かを握りしめている。
皮のような何かでぐるぐる巻きにされた、金属の棒。
手に感じる重さから多分、金属バットだと思う。
視界はよくはない。
夜だというのはすぐにわかった。
音は、聞こえない、と思う。
ゴウゴウと何かが燃えていた気もするし、何か男が叫んでいたかもしれない。
いや、叫んでいたのは、俺の方だったのか?
キーンと耳鳴りが酷かったことだけは覚えている。
喉が渇く。
いつまで睨み合いを続けるのか、次第にじれったくなる。
だから、どちらともなく駆け出す。
俺の口は、何かを叫んでいた。
バッドを横に振りかぶり、男は刀を縦に振り下ろす。
例えばChivalry2をVRでやったとする。
(Chivalry2:騎士道FPS。叫んで殺して殺されるゲーム)
振りかぶってくるな、と思ってからガードすれば間に合うわけだが、そいつの振り下ろしが見えなかったことを鑑みるに、優にその常識を超えていたんだと思う。
何も見えなかったが、金属同士のぶつかる甲高い音と、手に伝わる衝撃で、バットで弾いたんだと、決めてかかる。
自分が斬られたかとか、痛いとか、そんなことを考える余裕はなかった。
そんなことを考えるくらいなら、一刻も早くこの命のやり取りを終わらせないとと、思考が支配されていた。
兎に角、お互いぶっ殺してやるという思いで手で得物を振り回していると、俺の手とそいつの手から、同時にすっぽ抜けてしまったのだ。
俺の近くに転がってきたのは男の持っていた日本刀、咄嗟に手に取って振り返ると、男は俺のバットをフルスイングしていた。
体の軸語と振り返ったら、右腕の切り落とされた男が立っていた。
初めてその男の顔を見た。
このままだと訪れるのは失血死、しかし恐怖に歪んではいない。
怒りでもない、ただ、悲し気に口を開こうとして、結局何も言わずに、男は残った腕で傷を押さえながら、声にならない悲鳴を上げる。
そこでやっと、救急車のサイレンが耳に入るのだ。
いつも、そこで夢が醒める。
俺は、本当は、誰かの腕を切り落としたのかもしれない。
利き腕を切り落とされた人生がいかほどに幸せかわからない。
俺が同じ立場なら、きっと不幸だろう。
タイピングもままならないし、いろんなことに不便が付きまとうはずだ。
大概この夢を見ると、じっとりと汗を額にかいている。
俺は、生きるために誰かの人生を踏みにじったのだ、と。
あるいは、いっそ殺してやった方が幸せだったのではないか、と。
俺だったら、いっそ殺してほしかった、と。
俺は、天井から部屋の中心に垂れるロープを見る。
俺の人生だが、すでに積んでいる。
やりたいこともない。やり残したこともない。
過ごしたい時間もない。夢も希望もない。
友人も恋人も、誰もいない。
いつか首を吊るために、強度だけは確認したそれの穴を、俺はぼおっと眺めた。
ガチャリ
呼び鈴も鳴らさずに、ドアが開く。
誰だ?
振り返ると、玄関には忘れたこともない、あの男が立っていた。
あの日と同じ色の、形の違うジャケット。
片腕はもちろんなく、袖だけがへちゃっとしおれてぶらりと垂れ下がっていた。
「俺は生きているぞ」
そいつの顔は、逆光で見えない。
そこでいつも夢が醒める。
小汚い部屋で、目が覚める。
天井からロープは垂れ下がっていない。
俺は、あの男の顔を思い出せないでいる。
十物語 むちむちキムチ
俺が、島岡氏に指定された都内のハウススタジオの前に着いたのは、指定の時間から少し遅れてのことだった。
日は既に傾き、住宅街には長い影が伸びている。
涼しい風を感じながらも、急ぎ足で俺はその場所に向かった。
しかし、汗だくになる必要がなさそうだというのは、遠巻きにでもわかった。
何人かの男女が、待ち合わせ場所である一軒家の玄関前に立っていたからだ。
きっと、まだ鍵が開いてないのだ。
となると、十物語も始まっていないだろう。
玄関の前でタブレットを持った、黒っぽい地雷系ファッションをした高校生ほどにもみえる女性が、どこか遠くを見る済ました顔に似合わない、「本日の主役」とかかれたタスキを巻いているのが見えた。
・・・あれが、島岡さんか?
彼女は俺を見ると小さく会釈をして、また元のすまし顔に戻り、手元のタブレットに視線を移してしまった。
俺は彼女に、意を決して話しかける。
「Webライターの島岡さん主催の十物語の会場ってここですよね?」
「ダー」とだけ答えたのは、目の周りを赤っぽいアイラインで彩った典型的な地雷系メイクをした、美少女。
どこかで彼女のことを見たような、そんな気がする。
島岡氏の記事に出てきた?あるいはWebメディアの編集者か?
ううむ、思い出せない。
「しごとがら おしえてほしい おなまえを」
彼女に川柳のように促され、俺は「あ、むちむちキムチです」と面白味のカケラもなく答える。
「・・・このままお待ちください。島岡の準備が出来たら始めます。それまでは参加者同士で乳繰り合っててくださいバカヤローコノヤロー」
無表情なままそう言うと、彼女はタブレットを操作する作業に戻ってしまった。
「あなたも参加者ですか」
同じく会場を待っているのだろう眼鏡をかけた壮年の男性が話し掛けてきた。
「雪野大福」と名乗った彼は、カジュアルなジャケットのポケットから小さな箱を取り出すと、底をトントンと叩き白い包装紙に包まれた何かを手の平に出した。
市販の者に見えないからか俺の方へと差し出されたそれを受け取る勇気が、微妙に持てない。
「飴です、差し上げます」
礼を言って包み紙を解くと、ソフトキャンディのようにフニフニと柔らかい、真っ白な立方体が現れた。
知っているそれと違うのは、それがどの辺も同じ長さだったという点だ。
「そんな怖がらなくて大丈夫ですよ、甘くておいしいから」
髪の長い女性が、同じ包み紙をひらひらさせて見せびらかした。
白いそれは、淡白な甘みのあるプチプチとした実が含まれていて、そこそこにおいしゅうございましたとさ。
「上品な味ですね」と、思わず言葉が漏れると、クスリと彼女は笑った。
「ごめんなさいね、一言一句私とおんなじ感想だったから。あ、佐藤聡子って言います、今日はよろしくお願いしますね」
長い髪の彼女がそう名乗ると、スマホを見ていたもうひとりの女性も「BBQするアカミミガメ、よろしくさ」と言うと、俺の手を取ってぶんぶんと縦に振った。
背負っているスカスカのリュックが、ふにょふにょと揺れる。
「こば全員に聞いとるやざ、食べもんにアレルギーはあるがいね?昆布とか、魚とか」
「いや、特にないです」
「しゃけい!」
姿格好はボーダーシャツに紺のオーバーオールという都会風なファッションと裏腹ン、聞きなれない独特の訛。「しゃけい」って何?
だが、少なくとも会話が壊滅的にできないというわけでもなさそうで、俺は少し安心する。
その後他愛のない世間話に話を割かせていると、5分もしないうちに地雷系の彼女は玄関のドアを開けて俺たちを中に促した。
「とーりゃんせ、とーりゃんせ、こっちのみーずはあーまいぞ」
どこまで素なのかわからない心底やる気のなさそうな声色で歌いながら、玄関のドアが閉まらないように手で押さえている彼女だったが、全員が入ると何も言わずにドアを閉めてしまった。
スタッフなんだろうけど、十物語の会場には居ないのかな。
名前の一つでも聞いておけばよかったと少し後悔していたのだが、大福さんが「おお!」と驚きと喜び交じりの声を上げたので、そんなことはどうでもよくなってしまった。
廊下に立っていたのは黒い装束に白い仮面の、背格好の不明瞭な人物。
「ようこそ、十物語へ。他の皆さんは既にお越しいただいてますよ」
電子音声で語り掛ける鎌を模した杖をしたその人物は、まぎれもない島岡氏だった。