大したことのない話

脳みそに詰まったゴミを吐き出しておく場所

漬物語②

一問一答

私から。四宮くんはどういう体格だったさ?

俺と比べても大分華奢でした。身長は170ないくらいで、筋肉もなくて。

君は壺にはほんとに触らなかったの?wそんなわけなくない?wえちょまってwww魔王が封じられてそうなツボだったんでしょwwえー俺なら普通に割るけどなww中に隠しアイテムとか入ってそうじゃないすかwwwww

本気で嫌がるようなことだけは、したくなかったんで。

当時、貴方に恋人はいた?

そのちょっと前に一方的に振られました。それっきり連絡もブロックされて、怒らせたのかもわからなくて凹んでたのを四宮は慰めてくれましたけど。

キムチさんは高校時代に同級生に肩パンとかケツキックするタイプでした?

あー・・・やってた・・・かも。

四宮さんは漬物が好きだったんですか?

別にそんなことない・・・と思います。定職とかコンビニ弁当についてる漬物を残すなんて、しょっちゅうだったはずだし。

四宮は同じ学部だったってことはわかってったんだよな。ホントに心配なら学部に掛け合って調べてもらえたりできたんじゃないか?

出来たけどやらなかった。ってことは俺は、そこまで心配してなかったのかもしれない。大学生なんて授業サボって遊ぶなんてザラじゃないですか

あなたは人殺しですか?

違います。何聞いてくれてんすか。

壺の大きさ、わかる?

幅はだいたい大きめのスイカより一回り大きいくらい・・・かな。高さは車のホイールくらいだったと思います。

――「それでは語り継いでくれる方だけ、行燈の電気を残してください」という島岡氏の合図で、一つ、また一つと明かりが消えていく。

残った灯りは、3つ。

脚色① 紅茶子

四宮さんはキムチさんに恋をしていたのよ。男性同士の、禁断の恋!だからキムチさんを自宅に誘ったのね。

募る想いをSNSやデータに書こうものなら、どこかで貴方が見つけるかもしれないわ。だから四宮さんは手書きのノートに思いのたけを何冊も何冊も綴ってたのよ。そしてそれを、漬物壺に隠したわ。

ところが貴方が壺を見つけた時に、とっさに四宮さんは「触るな」と言ってしまった。貴方に伝えたい思いがそこには詰まっているのに、その思いを貴方に拒絶されると思い、咄嗟に自分から拒絶してしまった。自分自身が無意識に抱えていた諦めを自覚し、叶わぬ恋心と知ったから、自分から貴方との距離を取ったのよ。

あなたは、蓋を開けて四宮さんの思いを受け取るべきだった。受け止めるかはともかく、壺を開けて秘密を共有するべきだったのよ。そして二人は永遠に結ばれるの。

――現実には、そうはならなかったけど。

少なくとも俺は同性愛者ではないし、四宮にそう言う感情を抱いたことは一度もない。

それどころか、たっかしさんが言う通り、本当に心配していたかも怪しいよな。

脚色② 雪野大福

四宮さんの漬物壺に入っていたのは、漬物とは考えにくいですな。中に入っていたのは秘密にするに足る何か、人に言えない彼の負の側面の象徴ではないかと思うのです。結論から言うと、四宮さんが壺に込めたのは、呪いだった。

お二人は人文系の学部だと伺いました。今や漫画などでもよく出てきますから、そうでなくてもなら蠱毒と言う言葉は聞いたことがあるかもしれません。壺の中に毒を持つ害虫を入れ最後に生き残った一匹の毒を用いる、と言うものです。

思うにキムチさん、あなたは四宮さんとは、本当は仲は良くなかったんです。いや、四宮さんはあなたを友人とは思っていなかった。華奢で気弱な一人ぼっちの青年と、高校時代から少々ボディタッチの多い友人に囲まれた青年。まさに弱者と強者ですよ。今なら陰キャ陽キャ、とも呼ばれるのでしょうかな。少なくとも、キムチさんが四宮さんに感じていた友情とは別の鬱屈した感情が、四宮さんの中にあった。

話しを元に戻しましょうか。蠱毒とは、最後に残った一匹の毒を使って、人を殺すまでが蠱毒なのです。では誰がその標的だったのか。四宮さんが殺したかったのはキムチさん、貴方ですよ。そのために家に誘い、酒を飲ませた。毒を仕込む隙を作るために。

あなたは壺を開けなかったかも知れない。実際、開けなくて正解だったでしょうな。壺の中で互いに殺し合っている毒虫が貴方を襲ったでしょうから。

ただ貴方はそのまま酔いつぶれていたなら、きっと聞いたことでしょうな。カサ、カサとあなたに忍び寄る魔の手の音を。

 

――四宮が、毒で俺を殺そうとしていた?まさか、そんなはずない。ないと思いたい。

いや、あの大きさの壺なら蛇や毒蜘蛛が入っていてもおかしくないし、蓋を固く閉ざしていたことにも納得できる。

俺は、本当に四宮の友達だったのだろうか。

俺は、おれは・・・・

脚色③ たっかし

漬物ってさ、酒粕とか食塩に漬け込んで、できるだけ野菜を長持ちさせるものなんだよ。だとすれば入っていたものは、ずっと手元に置いておきたい、原型を崩したくなかったものなんじゃないか?

 

日本人が塩漬けにしてきたものの中に、生首ってのがある。戦国時代には敵の武将の首を、江戸時代には罪人の首を。本人確認をする方法が面相しかない時代だからな、当然と言えば当然だ。

壺に入っていたのは生首だよ、それも四宮の最愛の人のな。壺の大きさもちょうど合致する。

気弱な四宮にも高校時代に彼女がいた。気弱な彼氏を心配する、女傑だったとしようか。そして彼女は四宮を残して死んだが、彼女以外に何も持っていなかった四宮は、それを受け止めきれなかった。燃やしてしまえば一生美しい彼女を見ることは叶わない。だから、首を塩漬けにした。

ところが、大学に来てお前という友人を手に入れた。四宮は、彼女に見せたかったんだよ。自分の友人を。自分と遊んでくれる友人を。自分がもう一人じゃないってことを。四宮は、きっと彼女の首を今度こそ弔ったと思うぜ。

そして、お前からも離れていった。秘密に近づきすぎたキムチから逃げたかったのかもしれないし、今度キムチが死んでも首を塩漬けにはしまいという決意かもな。

そうかもしれないわね、魔●沙

それは、違う!

どうした、落ち着けよ。違うっても、脚色なんだから当たり前だろ。

そ、そうです、そうですよ。それにしても、僕好みの話じゃあなかったものですから。

選出

――俺の反応に、皆が目を丸くしている。

それでも、たっかしさんをすぐにでも黙らせないと、俺はそう追い込まれていた。

当のたっかしさんは訝しむような眼でこちらを見つめていた。

行燈に照らされたからか、俺に向けられた疑惑が表情に濃く浮かび上がっていた。

僕は助けを求めるように、暗闇に白い仮面を浮かべた黒装束の進行役を見た。

ふさわしい真相とは、その答えはとっくに決めていたのだ。

出揃いましたので、この「開かずの漬物壺」はどう語り継がれるべきか、むちむちキムチさんに決めていただきます。どうでしょうか、お気に召したのは?

はい、紅茶子さんの話がいいと思います。

あらやだ^~。キム×シノなの?シム×キムなの?

差しさわりがなければ理由を聞いてもいいですか?

なんだろうな・・・間違っても四宮は人を殺すような奴じゃないんです。それに俺からしてみれば、命よりも尻の穴を狙われてた方が恐かったんですよ・・・それに、ちょうどいいリアリティがあるというか、想像したら身の毛がよだったというか。

なるほど、それでは面白い恐怖体験を持ち込んでくれたむちむちキムチさん、ありがとうございました。

 

――終わった。なんとか潜り抜けた。

俺の勝ちだ。

 

いえいえ、とんでもない。それでこの話って島岡さんは記事にされるんですか?

それは、全員のが揃わないと決められませんね。

 

――それだけ言うと、島岡氏は全員に再び行燈をつけるように促す。

夜はまだ長い。残りの話は九つもあるという。

俺は、円形に座る全員をあらためてゆっくりと見回した。

 

次は誰だろうと高揚している者。

場の雰囲気に委縮されて委縮する者。

目を瞑り微動だにしない者。

ひっきりなしに自分の後ろを振り返る者。

そして、俺と同じように辺りを伺う者。

 

どんな話が聞けるのか、どんな尾ひれがつくのか。

まさか、俺の話に勝るものはないと思うが、それでもおかしなもので、俺はすでにこの場の虜になりつつあったのだ。

漬物語①

漬物語

漬物
主に野菜を塩・糠 (ぬか) ・味噌・麹 (こうじ) ・醤油・酢などに漬けたもの。
香の物。

大学時代の話なんですけど、同じ人文学部に四宮って男がいまして。
サークルや専行が同じってわけではないんですがね、取ってる講義が良く被ってて、それでいつの間にか仲良くなってました。
その四宮が、家で飲まないかって言ってきたときの話です。

 

四宮の家には、本当に面白いものがなかったんですよ。
食器棚の奥にあった、大魔王でも封じられてそうな、壺。
見つけた時は、「コレだ!」と思いましたね。

【楽天市場】漬物壺5号用 ふた のみ:ポタリーN

「それは漬物だ、触るな」

忘れもしませんよ、あの静かな中に威嚇を孕んだ声。
俺は気おされて、漬物壺から手を引っ込めました。

俺もいつもなら「激おこプンプン丸~」、なんて茶化したんですがね。
嫌な予感と言うのかな、どうにも普段と様子が違ったんですよ。

 

四宮と言う男は、滅多に命令なんてしないし、俺に敬語を崩さない男でね。
いつだって怯えてるような、俺の一挙手一投足を伺うような。
どこか卑屈で後ろめたそうな、湿った目を俺に向けるんです。

嫌なことがあっても「やめてくださいよ~」と言うだけ。
怒りも叱りも拒否も藻掻きも嫌な顔一つしないで、されるがまま。
優しいというよりは、弱気と言うかヘタレというか。
兎に角、そういう奴なんです。

 

だから「触るな」なんて言われたときには、本気で怒ってんだろうなって。
俺は、黙ってゆーっくり、四宮の方を振り向いたんです。
今思うと暢気なことに、ちょっとだけ興味があったんですよね。
もし怒っているなら、どんな顔になるのか。

 

でも、四宮はこっちを見ていなかったんです。
触るなと言ったっきり、それ以上黙ってずっとテレビを見たままで。
ゲームのコントローラーのカチャカチャと音だけが、ずっと部屋を支配してました。

その後、四宮に何を言ったのか、よく覚えてません。
ただ、それだけ触ってほしくないということは、流石に理解しました。

 

なので、結局俺は、あの壺には触らなかったんです。

 

それ以降、どこか俺はあいつに避けられるようになって。
大学からも、いつの間にかいなくなってたんです。
俺が、あの壺を見つけたからなのか。
或いは無神経に人の家を探ろうとしたからなのかわかりません。

 

ただ、それだけの秘密があの壺に入っていたのかもなあ、って今でも思うんです。

中座

え、終わり?wオチ弱くないすかw百物語っすよねこれw

それを言われちゃうとそうですね・・・

ちょっとツミさん、そんな言い方ないでしょ。あくまで本人にとっての恐怖体験なんですから。人によって価値観は色々。キムチさんにとってはこれが一番怖い体験だった、それだけでしょ

禿同

 

真っ暗な畳張りの部屋、各々の前に置かれた行燈の前でその光に照らされながら、思い思いの姿勢でくつろぐ男女。

その中に俺、「むちむちキムチ」もいた。

全員に共通するのは、黒い服に白い仮面をつけた謎のWebライター「島岡」のフォロワーであり、彼(あるいは彼女)が主催するイベント「十物語」の参加者だということ。

 

「十物語」とは、全員が思い思いの恐怖体験を持ち寄り、運が良ければ島岡氏の記事に採用されるかもしれない、という集まり。

いわばネタ出し会と言ってもいいのだが、侮るなかれである。

島岡氏の書く記事はいずれも日常の延長戦にあるミステリや風習、オカルトをテーマにしており、その一部は書籍化され、今や映画化の噂すらあるのだ。

自分の話が記事になれば、もちろんクレジットに名前も載る。

お金や地位では手に入らない、特別な承認欲求が大いに満たされる、というわけだ。

あーあー、私から一ついいですか、皆さん

 

――黒い衣装をまとった人物から機械音声が流れると、俺の話の出来で勝手に揉めていた眼鏡の若い男と30代ほどのロングヘアーの女性は、ようやく口を閉ざした。


まずはむちむちキムチさん、ありがとございました。で、摘みたてさんはいくつか勘違いされています。ああお気になさらず、過去にもそう言う方は居ましたし、いい機会ですからここで整理しておきましょうか。

十物語の説明

まず、この集まりは「百物語」ではなく、「十物語」です。ですので、一つ話したら蝋燭を消す、と言うことはしませんし、そもそも100個も話しません。長いし眠いし覚えてられないので。

皆さんにはこれから語られる10個の話を、より恐ろしいものにしていただきたいんです。要は、脚色ですね。

 

――「脚色」。その言葉に全員が眉を顰めた。
俺だってそうだ、あまりいい印象はない。
そんな中、白髪交じりの壮年の男性が、おずおずお手を上げた。

 

脚色というと、嘘を混ぜ込む、と言うことですかな?

嘘松

正直者の方は気が引けるかもしれませんけど、物書きの仕事なんてそんなものですよ。世の中に出回っている都市伝説や怪談といったミームは、必ずしも誰かが体験したそのままの内容ではないんです。摘みたてさんが言ったように、なんなら三者からしてみればつまらない事の方が圧倒的に多いんですから。だからこそ尾ひれがついて、友人の兄や親せきの叔父さんの知り合いから聞く話になって、そこで初めて本当にミームになる。私はそう思っています。

なるほど。ただその・・・経験した本人の了承もなしにそんなことしていいんでしょうか。仮にキムチさんの話を脚色したとして、その四宮さんとやらはあまりいい気持ちにはならないのでは?

だからこうして体験したご本人にお越しいただいているわけです。それに記事にする場合でも、個人名や時期もぼかして本人でも自分のことが書かれているとは気付かないようにします。

 

――その言葉に、全員が口をつぐむ。
「ならいいんじゃないか」と、誰かがぼそっと言ったのを聞くと、島岡氏は全員の顔を一つずつ、ゆっくりと見回した。
仮面の裏の島岡氏の面相は見えないものの、俺は「異論はないね?」と言われている気がして、小さく頷いた。

では続きを。話者以外の方には一人一問ずつ、話者であるキムチさんに質問をしていただきます。キムチさんは自分の推測やで答えても構いません。

その後でキムチさんと、キムチさんの話を「SNSの知り合いから聞いた話」にしていただける方はそのままに、そうでない方は行燈の電源を切ってください。明かりに照らされている人は、ご自身の尾ひれをつけた話を語っていただきます。

話者の方は全員の内容を聞いた後で、自分の実体験尾ひれのついた話のどちらを「真実」とするかを選んでいただきます。そうして作られた「真実」の中から選りすぐりを私の記事にする、そう言う流れになります。

質問。もし誰も脚色をしようとしなかったら?

それは、その時のお楽しみです。

 

――摘みたてさんの言葉を聞いた瞬間、暗闇に浮かぶ白いか仮面がどうしてかニヤリと笑ったように見えた。

もちろん機会音声だから声色なんてものはないのだが、不気味と言うよりは不吉というか、何か恐ろしい企みがあるような、不安感が靄のように残る。

思わず俺は目を背けて、目の前にある行燈を見ることにひたすら神経を注いだ。

そんな俺をよそに(むしろこの時は俺こそが蚊帳の真ん中にいたわけだが)、島岡氏は宣言した。よどみなく進行する。

それでは皆さん、一問一答をお願いします。

カタシロめいたTPRGリプレイ IN_CA■E 【完】3日目 ③

「お疲れ様、先生。ゆっくり休むといい」

部屋から出た私に、感謝の表情を浮かべた初老の男が手を差し出す。
私は力なくその手を握り返すが、まだ痺れが残っているのか実感が湧かないでいた。
どうにもこの結末でよいのかという、不安と言うか、釈然としないというか、モヤモヤとした不快感が私の胸中にあったからだ。

「これで、よかったんでしょうか」

思わず口から出た感想に、初老の男は笑い返す。

「全ての過程は公正に行われた。つまり、そうして得られた結果には何の問題もない。よって、結果の内容に君を含む我々全員が口をはさむ余地はないんだ。事実、あれこそが、彼の選択だと彼らも認めている」

そう言って、男は背後で話し合う4人の男女を見やる。

「いや、驚いたよ」
「無罪、無罪か。なるほどな」
「事後処理だけ、大変だろうが・・・」
「まさか長江の末、何も知らないまま終わりとは」

「少なくとも、君のおかげで我々は納得に足る一つの結論に至った。9か月もかかったが、決して無駄ではなかったよ」

そう言うと、男女の輪に初老の男も加わるべく歩き始める。
その背中に、私は問わずにはいられなかった。

「私は、あのシミュレーションで完璧だったのか、それだけが心配なんです」

立ち止まった初老の男は、振り返らずに話した。

「それは技術者としての性か、それとも人としての根源的な問かな?そもそも、正義への問いかけに完璧など存在しないと思うが・・・。まあ、君のためにも私の見解を述べておこう」

◆結果発表

確かに彼は、何も知らないでいることを選んだ。
当初我々が彼に知らせなければならないと定めた、彼が選ばれた理由も、彼自身の今の状態も、ジョコモとの関係も、彼自身は自覚するがなかったことを意味する。

つまり、一人の人間としての見解を述べたに過ぎない。
だが、その間にジョコモに触れ、こちらで用意した思考実験によって、何の考えもなしに答えを出したわけではない、というのは間違いない事実である。

「あんだけトラウマになってんだし、正直、そこまで責められる謂れないかな」
という彼の出した判決は、我々が重く受け止めるべき価値あるものだと、評価できる。

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カタシロめいたTPRGリプレイ IN_CA■E 【8】3日目 ②

問3

とある5人の探検隊は、突如起きた地滑りにより探検していた洞窟に閉じ込められてしまった。
辛うじて外との通信はできたものの、残っている食料を鑑みると、救助が来るまでには全員が飢え死にしてしまう。
彼らは全員で、一人を殺しその肉を食べることで生き延びようと合意に至り、犠牲者を決める方法は公正にサイコロの出目の大きさで決めることになった。

救助後、生還者は死亡した探検隊の殺人の罪に問われることとなり、高等裁判所では現行の刑法に「他者を殺害し、食べた場合は死刑である」定められている通り、死刑判決が出た。
世間はその判決に対してこぞって批判の声を上げ、生還者を擁護した。
そして弁護士は最高裁へと控訴を行うことになる。

あなたは、最高裁の5人の判事の一人です。
既に2人は有罪、もう2人が無罪と判決を出しています。
あなたは以下のいずれかを選ぶことができます
どれを判決として、選択しますか?

有罪、つまり死刑判決
無罪、つまり罪に問わない
忌避、つまり判決を放棄

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カタシロめいたTPRGリプレイ IN_CA■E 【7】3日目 ①

Reboot... ■■■■■■□□□□ 69%
Reboot... ■■■■■■■□□□ 77%
Reboot... ■■■■■■■■□□ 83%
Reboot... ■■■■■■■■□□ 83%

■登場人物
・驍ェ謔ェ縺ェ蠢?r謖√▽蟷シ縺榊シア縺咲ォ懊?邏(純)
 繧サ繝ウ繝医Ο繧、繝牙?蝨偵?豢樒ェ溘↓逕溘″蝓九a縺ォ縺ェ繧、
 繧ク繝ァ繧ウ繝「縺ォ繧医▲縺ヲ谿コ螳ウ縺輔l縲?」溘∋繧峨l繧。
 
・繧ォ繧ソ繧キ繝ュ(カ)
 AI繧ィ繝ウ繧ク繝九い。陬∝愛縺ァ閾ェ繧牙ソ碁∩縺励◆蛻、莠九↓莉」繧上j、
 陲ォ螳ウ閠?rAI縺ァ蜀咲樟縺、蛻、豎コ繧呈アコ繧√&縺帙h縺?→縺吶k。

・繧ク繝ァ繧「繝ウ繝サ繧ク繝ァ繧ウ繝「(July)
 蜈??蟆丞?遘大現縲。
 騾夂ァー縲梧エ樒ェ溯ュ壽声蟶ッ谿コ莠コ莠倶サカ縲阪↓縺翫>縺ヲ、
 谿コ莠コ縺ョ鄂ェ縺ァ襍キ險エ縺輔l縺ヲ縺?k。


―――目覚ましジャンケンジャンケンジャンケンジャンケンジャンケン・・・

うるせぇ、うるせぇ、うるせぇってんだよこの!
起き上がると同時に、永遠に「ポン」の来ないジャンケンは鳴りを潜めた。
シャンクス、ありがとうございます。

当たり前だがリスポーン地点は昨日と同じ部屋、同じNot柔らか布団だ。
そして、いつもと同じ椅子にカタシロは座っていた。

カ:おはよう
純:おはようございます
カ:最後の検査も、今まで通り問題なく終わると期待しているよ
  それが終われば、晴れて、今日で退院だ
純:へぇ、ありがとうございます
カ:それじゃあ早速始めようか
純:その前に、昨日何かあったんですよね?
カ:何か?いいや、何も
純:なんかこう、ジョコモの部屋で放送が流れて
カ:ああ、あれは、避難訓練の音だよ

カタシロの仮面には、いつの間にか🙄と表示されている。
しらばっくれるつもりなのか?
それならその考えが顔に表示される仕組みはあまりに不利すぎん?

純:公園が何とかって流れてましたよね

カタシロは俺の顔を見て、ごまかすのを諦めたらしい。
肩をすくめて、両手の平をこちらに見せるように広げて見せた。

カ:あれは、ジョコモへの判決を取り消せって言う、デモみたいなものでね
  彼らは主張を通すために過激な方法、いわゆるサイバーテロを行ったんだ
純:なんだか物騒で。そのうち乗り込んでくるんじゃあ?
カ:だとしても今日で退院の君には関係ない、だから気にしないでくれ

まるでリストラを隠す親のような口ぶりで、カタシロは強制的に会話を終わらせた。
俺も突き放されたような態度に、それ以上は何も言えなくなってしまった。

カ:そろそろ始めようか

カタシロは、床に置いてあった、各辺30cmほどの白い2つの箱を拾い上げ、片方を俺に渡した。
開け閉めが可能な小さな窓がついており、そこから中身を覗くことができるようになっていた。

カ:君は君の箱の中身を見て、確認してくれ
  ちなみに、お互いの箱の中身を見せ合うことはできないし
  箱に手を突っ込む、空気を流し込む、箱を傾けるなどもNGだ

カタシロは箱の小窓を開け中身を見ると、仮面に😏と表示した。
俺も合わせて中身を見ると、そこにはオスのカブトムシが入っていた。

赤茶けた甲殻を携え、ノソノソ動く一本角の昆虫、日本の少年たちの間では往年の夏の大スターだ。
とりわけ大きいわけでもないが、テンション上がるなぁ~

カ:君には、お互いの箱の中身が一緒か、それとも違うかを宣言してほしいんだ
  君は宣言までなら何度でも、私に箱の中身についてどんな質問もしていい
  そして、私は決して嘘はつかない
  ただし、箱の中身が同じかを判定するのは、私だ
  そして、宣言が判定と合うかは特に問題じゃないから、そこは安心してほしい
純:なるほど、すごいシンプルだが、箱の中身はころころ変わるんすか?

カ:『シュレーディンガーの猫箱』か。それは知っているんだね

三者によて箱が開けられて中身が確認されるまで、その実体は確定しないという量子力学か何かの定理だったはずだ。
仮にそうなら、こんなクソゲーはない。

カ:安心してくれ。答え合わせするまで、箱の中身は変わることはないよ
純:答え合わせしたら、か
カ:そういうこと。合わせてゲームは3回、早速やってみようか

●ゲーム1

俺は手元の箱の中身をもう一度確認する。
中身は先ほどと変わらないカブトムシだ。

純:あんたの箱の中身は、カブトムシか?
カ:カブトムシだ
純:じゃあ、箱の中身は同じだ
カ:それじゃあ開けてみようか

カタシロがそう言いタブレットを操作すると、テレビに二つの画像が表示された。
片方は俺の箱の中にいる角の立派なカブトムシ。
もう片方はカタシロの箱の中身。
そこにいたのは、どこか緑がかった光沢の、角のない大きな甲虫だった。

カ:見た目からして違うねぇ、残念だ
純:いやいや、あんたのそれのどこがカブトムシなんだよ!
純:どう見てもフンコロガシだろ!納得いくか!
  やだな、これは、アトラスオオカブトのメスだよ
  だからカブトムシかと言われれば、カブトムシだ
  君のは日本のカブトムシだね
純:じゃあ同じじゃねーか!

カタシロは仮面に意地の悪そうな😜を表示する。

カ:日本のカブトとアトラスオオカブトのメスじゃ市場価格は全然違うんだ
  そもそも生き物としての種目も性別も違うじゃないか
純:そうか、そういうことかい・・・
カ:納得できたかな。次いってみよう

判定はカタシロが行う、その時点で理不尽案ゲームじゃね、これ?

●ゲーム2

俺の箱の中身は、さっきのとは別のカブトムシだ。
角が3本あるし、金属的光沢は緑がかった色をしている。
そして、尻から角の先までの体長は10cmほどと随分大きく、じっと動かない。

純:箱の中身は、カブトムシか?
カ:カブトムシだ
純:そっちの箱の中身は、角は3本あるやつ?
カ:そうだね、角が3本ある
純:ちゃんと、甲虫なんだよな?
カ:6本足で光沢もあるよ
純:光沢の色は?
カ:黒色にグリーンの差し色だ
純:体の大きさは10cmくらい?尻から真ん中の角の先の長さですからね
カ:うん、丁度そんな感じだね

特徴は合致する。今度こそ同じカブトムシだ。

純:同じカブトムシだ。間違いない
カ:見てみようか

テレビに表示されたのは、全く同じ種類、全く同じ大きさの3本角のカブトムシ。

純:これは文句のつけようもなく同じだろ
カ:うん、見た目は同じだね

カタシロが箱のふたを小さく開けると、元気よくカブトムシが飛び立って、また元の箱に戻っていった。
画面の中に映るカタシロのカブトムシは、未だにもぞもぞと動いている。

カ:君も、箱をさかさまにしてくれないかな

俺は蓋をしたまま、くるりと箱をひっくり返す。
テレビに映る俺のカブトムシは、180度ひっくり返ったにも関わらず落ちるどころか微動だにしていない。

カ:君の箱の中にあるのは、私のと同じコーカサスオオカブトムシだけれども
  私の生きているカブトとは違う、箱の床に固定してあるはく製だね
純:うっわ、最低。こんなん騙し討ちじゃん
カ:種目としてもは同じだし、大きさも一致している
  けど、こっちのカブトムシは生きてて、君のは死んでる
  流石に同じとは言えないかな

●ゲーム3

箱の中身は、またもカブトムシ。
光沢に青みを帯びた、一本角のカブトムシだ。
先ほどのなんたらオオカブトと大きさもほとんど変わらないから、体長は10cm級と見てよさそうだ。
もぞもぞと動き、箱の床には「この子はトーマス」と子供の文字の書かれた紙が貼り付けてある。

カ:最後のゲームは最初に私から説明しよう
 私の箱の中身は、一本角のカブトムシがいる
  少し青みを帯びた光沢をしていて、角の先は二股に分かれている
  元気に動いているから、間違いなく生きた本物だとわかる
  大きさはおそらく10cmほどで、名前はトーマス。そう名札が書かれている

外見的特徴は全く同じだが、流石に俺も学習した。
そもそも、この世界に同じカブトムシが同時に二か所に存在するわけがない。
それこそクローンか、スワンプマンかだとしても、別個体なのは間違いないんだ
そう、最初から俺たちのカブトムシは箱が分かれている以上、「別物」なんだ。

純:茶番だ、箱の中身は違う。同じ物体は同時に存在できないからな
カ:潔いね。結果を見てみよう

テレビに映し出されたのは、見た目は全く同じカブトムシ。


純:それで?これはクローンか?
カ:同じカブトムシだよ。完全に一致した、同一のカブトムシだ
純:はぁ?

片方のカブトムシが角を上げると、もう片方のカブトムシも角を上げる。
完全に同時、完全に同じ動きだ。

カ:この子はトーマス。私の息子が飼っている、世界に一匹しかいないカブトムシだ
  お互いの箱に写されているのは、定点カメラで観察しているトーマスの映像
  いわゆる、立体映像ってやつでね
純:な、な、な!

カタシロの顔にはやはり😜と表示される。
・・・一本取られてしまった。

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カタシロめいたTPRGリプレイ IN_CA■E 【6】2日目 ③

■登場人物
・邪悪な心を持つ幼き弱き竜・純(純)
 大学生。事故に遭って、気が付いたら黒い部屋に寝ていた
 欠かせないカレーのトッピング:メンチカツ
・カタシロ(カ)
 医者。表面に顔文字を表示する仮面をつけている
 欠かせないカレーのトッピング:温泉卵
・ジョコモ・ジョアン(July)
 同じく病院に入院している。事故の被害者だが、その記憶がない
 欠かせないカレーのトッピング:福神漬

どうする?コンソールで話し掛けて見るか?
いや、その前に部屋の中を調べておきたい。

ベッドのすぐ脇にある、受話器やらアラームやらがまとまった傍机・・・とでも言えばいいのだろうか。
この機械から目覚ましジャンケンが流れてるわけか。
時計の電子表示は13:45と言う時刻を表示しているが、日付や曜日までは表示されていなかった。
それどころか、アラームの時間や音を設定するようなボタンもない。
黒いプラスチックの箱に、シンプルな黄緑色のデジタル時計がついているだけなのだ。

机の端にリングチェーンでつなげられている、合成皮でできたカバーのついたパンフレットが目に入った。
ここに、施設の紹介や、この機械でアラームを設定する方法も書かれているのかもと思って手を伸ばす。

純:・・・はぁ?なんだ、これどうなってんだ?

手に取ろうとしたが、机に固定されているのか持ち上げることもできない。
せめてページをめくろうとしたのだが、それすら叶わないのだ。
つまりこれは、パンフレットの置物、ってことか?
えぇ・・・?どういう芸術?

違和感はそれだけじゃなかった。
座っているベッドも、何か、しっくりこない。
掛け布団もないし、シーツには皺もつかない。
そして、枕やマットレスに力を込めても形が変わる様子もないのだ。

よもや、己の力の至らなさゆえか?
否、否、否ァ!ゆえにこそ、全身全霊をもって答えよう!

純:俺のこの手が真っ赤に燃える!
純:枕を掴めと、轟き叫ぶ!

右手に込められた「キング・オブ・ハート」のエネルギーが、烈火のごとく右手を焦がし、激痛からか脳髄にジリジリと激しく電気刺激が走る感覚に苛まれた。



       か 
              ら

 
ど 
    う
        し 
            た  
                 !!


純:ばぁぁぁくねつッッッッッ!!!!
純:ゴォォッド!!フィンg


衝撃の瞬間、俺の時間が留まった。
力をどんなに込めても、身動きが取れない。
首一つ、目玉一つ動かせない!
天井の白熱灯がチリチリと点滅し、ついに部屋は真っ暗になった。
窓からの光は、部屋には差し込んでいない。

・・・何が、どうなってるんだ?
っていうか、「右手に込められた『キング・オブ・ハート』のエネルギー」って何?


ジリリリリリリ


体感数秒の後、昨日と同じく鳴り出した呼び出し音とともに、部屋は元通りになった。
電気、窓の光、空ぶったゴッドフィンガー、どれも俺の知っている常識のそれだ。

純:これが、事故の後遺症ってことなのか?

ぽつりとした呟きは、未だに鳴り続ける呼び出し音でかき消されて、耳に入る前に立ち消えてしまった。
あー・・・うるせぇ。
中指と薬指の間を開いた手の形でそのまま手を伸ばすが、それを持ち上げる寸前、躊躇いが生まれた。


――― ・・・彼はある裁判にかけられている
――― 『不幸な事故だ』と、10人中10人が誰もが首を縦に振るよ
――― 彼には罪があるのか


いや、いや、考えすぎだろ。
俺は首を横に振り、受話器を持ち上げた。

?:我々はセント■■■国■公園■■■■の■■■■■判事に■■の撤回を■■する
?:■正な■■をもって、被■■■族への■■が■■■■■■!

耳に入るのは、男の荒い息遣いと、背後に流れる機械で編集された声による放送。
何度も同じ文句を流しているようだが、何分音が遠くはっきりとは聞き取れない。

カ:もしもし?

返事はない。
昨日と同じで、向こうの音声は聞こえてもこちらの音声は聞こえないらしい。
つまり、こっちは文字で相手するしかないわけだ。
俺は、キーボードを取り出しテレビに向けてボタンを押した。

▣June>>おい、掛けてきたのはそっちでしょ
☮July>>あ、あ、お、た、助けてくれ。何も見えないんだ、暗くて、ああ!

聞こえたのは、憔悴しきった弱弱しいJulyの声だった。
コヒュー、コヒューと過呼吸気味の息遣いから、相当に事態が深刻らしい。

▣June>>暗いくらいで泣かないでくださいよ、大の男がみっともない
☮July>>本当に何も見えないんだ。胸がざわざわする
▣June>>窓を開ければいいんじゃないすか?まだ昼間だし
☮July>>ここに、窓なんてない!

相当に苛立っているらしい、ブツブツと文字には起こされないような譫言をずっと言っている。

▣June>>暗いんじゃなくて、後ろで流れている放送に怖がってる、ってことは?
☮July>>よしてくれ、聞かないようにしてるんだ・・・耳をふさいでる
▣June>>だと俺にできることって何かあります?
☮July>>そうだな、極力明るい話をしたい。勇気と希望に満ちた、未来の話だ
▣June>>未来の話、ですかい

明るい未来なんてイメージは湧かないが、何でもいい、それらしい話をしないと精神崩壊しかねない気がする。

▣June>>俺、大学を出た後に働く先が決まったんです

返事はない。が、息だけは聞こえる。
受話器の向こうの相手は少なくとも死んではいないし、気を失ったわけでもないらしい。

▣June>>あまり頭がいい方じゃないんですよ。親も正直、ずっと心配してたし
▣June>>でも、何とかスポーツ用品のメーカーに雇ってもらえることになって
▣June>>別に有名じゃない弱小メーカーだけど、なんとか親孝行できそうなんです
▣June>>もう内定、取り消されてるかもしれないんですけど
▣June>>少なくとも、会社で働くだけの資質はあるって認めてもらえたし
▣June>>まあ、自信にはなったかなあって

・・・どうだろう。
反応を伺うために、いったん言葉を吐き出すのを止めると、暫くしてJulyは尋ねた。

☮July>>その、名前は?
▣June>>それは、俺の親の?
☮July>>いやメーカーの名前だ。見つけたら買うよ
▣June>>ナデシコっていう、登山用品のメーカー
☮July>>ピンクの花のロゴだったか、ストックホルムでも見た気がするな

俺は、打ちかけた文字を途中で止める。
北欧どころか俺の地元以外じゃ売ってないけど、絶対に国際展開してやるよ、と啖呵を切ってやろうと思ったのに、「ストックホルムでも見た」だと?
いや、そんなはずはないんだ。
27歳の時に有名なアルピニストが愛用者だとわかってネットでバズってから、細々とした会社だったのを一気に海外展開させた、それが俺たちが30手前の・・・時で・・・?

あれ、つまり・・・あれ?

☮July>>なあ、返事を返してはくれないか?
☮July>>おーい?

「何かが、ズレている」それだけは理解できた。
Julyの俺を呼ぶ声が止み、一瞬の完全な静寂の中で、彼の背後に流れる放送の一部が明瞭に聞き取れた。

?:我々は、セントロイド国立公園...

ブツッ、と言う音とともにその声は途切れてしまう。

▣June>>後ろで流れてた音、止まったみたいですね
☮July>>本当に?
☮July>>おお、本当だ

床にどさっと何かが倒れる音。
緊張の息が切れたのか、はぁ、はぁという音だけがしばらくしてから、Julyは泣き始めた。

▣June>>あんたのことも、何か聞かせてくれませんか
▣June>>仕事でも何でもいい、ジョコモさん
☮July>>その名前、どうして君がそれを?
▣June>>カタシロって医者が、名前だけ俺に教えてくれたんです。それ以外は何も
☮July>>あの男か

しばらく沈黙してから、息もとぎれとぎれに、July、いやジョコモは話し始める。

☮July>>私もね、医者だったんだ。小さい子専門の医者、小児科医だった
☮July>>ある子供がね私に泣きながら話しかける、そんな記憶
☮July>>妄想じゃないとも言い切れないが、暗闇を見ていると思い出すんだ
▣June>>聞かせてほしい
☮July>>君の気分を、害するかもしれない。蜘蛛は苦手だったりはしない?
▣June>>取り立てて好きってわけじゃないが、恐怖症って程じゃないよ
▣June>>それよか、あんたのことをもっと知りたいんです
☮July>>・・・わかった。ある子供がね、私に話しかけるんだ
☮July>>トイレの便器の中に小さい蜘蛛がいたんだそうだ
☮July>>いずれ蜘蛛は水に流されてしまう、可哀そうに
☮July>>そう思ったその子は、蜘蛛を便器から助けようとした
☮July>>だが、力の加減を誤って、その蜘蛛を潰してしまった
☮July>>医者なら治せるだろうと、その子は私に泣きつく
▣June>>あなたは、なんて返したんです?
☮July>>君は悪くない、ただやり方が良くなかった。そう言ってあげたよ
☮July>>他者を想う気持ちは必要だ、ただ手段を間違えただけだ、ってね

まあ、そう言うこともある。
余計なお世話、と言うやつだ。

☮July>>あ、電気が戻った。説明に、誰か来るはずだ
▣June>>一件落着ですか
☮July>>おかげさまでね。君が、2日目も話が通じる相手でよかった
▣June>>それどういう意味です?褒めてます?
☮July>>来た。また話そう
☮July>>cmd  - logout July

俺は混乱していた。

存在しないはずの、未来の具体的な記憶の断片。
俺の部屋に放送は流れていないし、停電にもなっていない。
一瞬静止した世界。

まあ、何にせよ、明日には退院だ

コンソールの電源を落とした俺は、カラカラになった喉を潤そうと栄養ドリンクを一気に飲み干し、そのまま深い眠りへと落ちて行った。
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カタシロめいたTPRGリプレイ IN_CA■E 【5】2日目 ②

■登場人物
・邪悪な心を持つ幼き弱き竜・純(純)
 大学生。事故に遭って、気が付いたら黒い部屋に寝ていた
 好きな昆虫:カブトムシ
・カタシロ(カ)
 医者。表面に顔文字を表示する仮面をつけている
 好きな昆虫:アリ
・July
 同じく病院に入院している。事故の被害者だが、その記憶がない
 好きな昆虫:チョウ

問2

ジェームズが沼地を散歩していると、不幸にも雷に打たれて死んでしまう。
彼の死体が倒れ込み沈みゆく沼に再び落雷が落ち、奇跡的な科学反応を起こす。
泥から死んだ男と全く同質、同一形状の生成物が生まれたのだ。
この生成物、仮にスワンプマンとすると、外見から脳細胞の原子構造、果てはDNAまで死んだ男と全く同一であり、もちろん記憶も性格も、精神も引き継いでいる。
スワンプマンは死ぬ直前の男の記憶を引き継ぎ、家に帰り、予定していた用事を済ませて、家族に電話をしてから、ジェームズが読みかけていた本を読み始めた。
翌朝ベッドから起き上がったスワンプマンは、いつも通りに朝食を済ませて職場へと赴く。

外見、精神が全く同じスワンプマンと死んだジェームズは、同一の存在だろうか。

純:・・・はぁ~、難しいな。漫画じゃあよくありがちだけど
カ:これも正解なんてものはない。質問があれば聞くよ
純:元の男は、死んだんですよね?
カ:ああ、沼を探ればちゃんと死体は出てくるよ
  ただ、「ジェームズによく似た誰かの死体」だと、人々は思うだろうな
  仮にその死体をスワンプマンが見ても、同じく自分によく似た他人だと考えるよ
  スワンプマンがその沼から生まれたなんて、おそらく誰も思いもしない

はいはい、誰も彼もが、スワンプマンをジェームズだと思っているからか。
というか、死体が見つかって、DNA鑑定か何かで死体がジェームズだとわかるその瞬間まで、全員の中でジェームズと認識されてるのはスワンプマンなわけだ。
だとしても、だ。

純:いや、同一じゃない、と思いますね
カ:ほう。詳しく聞きたいな
純:少なくとも、沼の底にジェームズの死体かその跡があるから、っていう・・・

カタシロは足を組み替えると、前のめりになり顎に手を当てる。
何も言わないが、俺自身が言葉を吐き出すことを待っているように。

純:仮にっすよ、Aって場所にある水素とBって別の場所にある水素があるとして
  2つは全く同じ構造で、全く同じ機能を持っていても
  酸素と結合して水になれるなら、別もの、2個とカウントするわけじゃないすか

カタシロはタブレットに何かを打ち込みながらも、俺の方を向き言った。

カ:ジェームズの死体の遺留物とスワンプマンがこの世界に同時に存在する以上、
  物理的に別の実体を持つ、ということかな
純:そう。人間の認識の上では同じかもしれないけど、厳密には違うのかなーって
  ・・・ちなみに二人が戦ったらどっが強いですか?

それを聞いて、カタシロはくすりと笑った。

カ:片方は死んでるから、その仮説は成り立たないよ
純:・・・そうか、そうでしたわ
カ:もう一つ聞いてもいいかな
純:できるだけ難しくないのを頼みますよ
カ:もし、君の10年来の友人が途中からスワンプマンに入れ替わっていたと知ったら
  君とその友人との間で、何か変化はあるかな

途中から入れ替わっていたら?
俺は、一度本人は死んだと受け止めるんだろうか。
その上で、スワンプマンをよく似た別人だと、割り切るんだろうか。

純:それって、本人はやっぱり死んでるんですよね
カ:ああ、沼の底にいるよ
純:最初に俺と会ったソイツは死んでるってことか
  だったら、きっと葬式はするんだろうな・・・
カ:記憶も体も当の本人と同じ人間がいるのに?
純:ええ。俺が最初に会ったのは泥人形じゃないわけでしょ?
カ:君が過去に会っていたのはスワンプマンじゃない、確かにそうだね

「興味深いな」と、カタシロはタブレットに何かを打ち込む。

カ:葬式の後は、どうするのかな
純:そのスワンプマンのことは、本人の弟か何かだと思うようになると思います
カ:それは、双子の弟のような関係性?
純:そう、双子。まさしくそれです。もしくは、Mk-2的な感じ
  どうやっても、本人と同じとは割り切れないっすね

カタシロはそれを聞いて頷くと、タブレットを畳む。

カ:なるほど。君の記憶の中の相手、か
カ:すごく参考になった。ありがとう
純:これがリハビリになってる実感は湧かないですけどね
  じゃ、約束は守ってもらいますよ。俺を、廊下に出してくれ
  

「もちろん」とカタシロは立ち上がると、ドアノブをひねって力を込めて押し開く。
随分重いらしくギ、ギ、ギと音を上げながらドアがゆっくりと開いていき、廊下の光が細い隙間から部屋に入ってくる。
開き切ったドアを背に無言で促すカタシロに従って、廊下に顔を出した俺は、左右を見渡すやいなや「おー・・・」と思わず声を漏らしてしまった。

それこそホテルで使われているような、えんじ色のカーペットが敷かれた廊下が、随分長く、それこそ学校の廊下くらい伸びている。
左右の壁には先ほどカタシロが開いたこの部屋のものと同じ、濃い茶色のドアが点々と並んでいる。

純:それぞれの部屋に患者がいる、ってことすか
カ:ああ、流石にプライバシーに関わるからそれ以上は言えないが
純:その中には、Julyっていう患者もいます?
カ:July、なるほど。君にはそう名乗っているんだね

そう言うと、カタシロは廊下に出ると、そのまま歩き出す。
俺は、後を追いながら尋ねた。

純:名乗ってるってことは、本名じゃないんだな
カ:『ジョアン・ジョコモ』と言う名前に、聞き覚えはないかな

その名前を聞いたとたんにザラザラというノイズが、頭の中を一瞬走る。
まるで、知っている名前のような響き。
しかし、ジョアンなんていう小洒落た名前の外国人の友人は帝京平成大学にはいなかったし、今までの人生で会ったことがあれば覚えているはずだ。

ジョアン・ジョコモ、ジョアン・ジョコモ・・・ジョルノ・ジョバァーナ
・・・ジョジョの奇妙な冒険の、何部かの主人公?小説とか?
いや、ダメだ、思い出せない。
まるで足利幕府の初代将軍尊氏と三代将軍義満は知っているのに、二代目の名前だけが出て来ないような、不愉快な感覚だ。

純:ないっすね。日本の漫画にそんな名前の奴が主人公のがあった気がするけど

カタシロは、ジョアンとやらについては饒舌になるらしい。
歩きながらも、慎重に言葉を選びながら、俺に話しかける。

カ:・・・彼はある裁判にかけられている
純:裁判・・・それは、事件ってこと?事故じゃないのか?
カ:『不幸な事故だ』と、10人中10人が誰もが首を縦に振るよ
  問題は、いや、まあ、そうだな、彼には罪があるのか、ってことなんだ
  ・・・それを、私もはっきりさせられないでいる

カタシロは一瞬言葉を詰まらせて、俯きがちだった背筋をおおげさにぴんと正した。

純:罪、ねぇ。過労で寝ぼけて幼稚園のバスに車で追突した、とか?
カ:言い得て妙だが、似て非だね
純:そりゃ残念
カ:5人に一つずつケーキを送ろうとしてプレゼントの箱に詰めた
  しかしその日の夜に机の脚にガタが来て、箱の4つが机から落ちた
  もちろん、ケーキは一人しか食べられない、みたいな話さ
純:そんなの誰も悪くないでしょ。強いて言うと運が悪かっただけだ
カ:そう、この話は決して運悪くも、5人全員が一律に幸せになることはない
  君なら・・・いや、よそうか

カタシロは何かを言いかけて、あるドアの前に立ち止まった。

カ:何はともあれ、彼はこの部屋から出て来られないでいる
純:あんたらが出さないんじゃなくて?
カ:《《それもある》》。彼と会話できるなら、是非そうしてあげてほしい
  心の扉ほど、重いものはないんだ

トントンとドアをたたくも反応がないことに肩をすくめると、カタシロは元来た道を戻っていく。
そうして元の俺の部屋までたどり着くと、昨日同様に栄養ドリンクを飲むように言い残し、部屋のドアに手をかけた。
その背中に、俺は言ってやった。

純:さっきのケーキの件だけど、『ケーキの代わりの物をもらう』、じゃダメか?

振り返ったカタシロは仮面に😮と表示するだけで、何も言わなかった。
そうして彼が閉じたドアは音もなく閉じていき、あっさりと俺と廊下とを隔てたのだった。

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