大したことのない話

脳みそに詰まったゴミを吐き出しておく場所

漬物語②

一問一答

私から。四宮くんはどういう体格だったさ?

俺と比べても大分華奢でした。身長は170ないくらいで、筋肉もなくて。

君は壺にはほんとに触らなかったの?wそんなわけなくない?wえちょまってwww魔王が封じられてそうなツボだったんでしょwwえー俺なら普通に割るけどなww中に隠しアイテムとか入ってそうじゃないすかwwwww

本気で嫌がるようなことだけは、したくなかったんで。

当時、貴方に恋人はいた?

そのちょっと前に一方的に振られました。それっきり連絡もブロックされて、怒らせたのかもわからなくて凹んでたのを四宮は慰めてくれましたけど。

キムチさんは高校時代に同級生に肩パンとかケツキックするタイプでした?

あー・・・やってた・・・かも。

四宮さんは漬物が好きだったんですか?

別にそんなことない・・・と思います。定職とかコンビニ弁当についてる漬物を残すなんて、しょっちゅうだったはずだし。

四宮は同じ学部だったってことはわかってったんだよな。ホントに心配なら学部に掛け合って調べてもらえたりできたんじゃないか?

出来たけどやらなかった。ってことは俺は、そこまで心配してなかったのかもしれない。大学生なんて授業サボって遊ぶなんてザラじゃないですか

あなたは人殺しですか?

違います。何聞いてくれてんすか。

壺の大きさ、わかる?

幅はだいたい大きめのスイカより一回り大きいくらい・・・かな。高さは車のホイールくらいだったと思います。

――「それでは語り継いでくれる方だけ、行燈の電気を残してください」という島岡氏の合図で、一つ、また一つと明かりが消えていく。

残った灯りは、3つ。

脚色① 紅茶子

四宮さんはキムチさんに恋をしていたのよ。男性同士の、禁断の恋!だからキムチさんを自宅に誘ったのね。

募る想いをSNSやデータに書こうものなら、どこかで貴方が見つけるかもしれないわ。だから四宮さんは手書きのノートに思いのたけを何冊も何冊も綴ってたのよ。そしてそれを、漬物壺に隠したわ。

ところが貴方が壺を見つけた時に、とっさに四宮さんは「触るな」と言ってしまった。貴方に伝えたい思いがそこには詰まっているのに、その思いを貴方に拒絶されると思い、咄嗟に自分から拒絶してしまった。自分自身が無意識に抱えていた諦めを自覚し、叶わぬ恋心と知ったから、自分から貴方との距離を取ったのよ。

あなたは、蓋を開けて四宮さんの思いを受け取るべきだった。受け止めるかはともかく、壺を開けて秘密を共有するべきだったのよ。そして二人は永遠に結ばれるの。

――現実には、そうはならなかったけど。

少なくとも俺は同性愛者ではないし、四宮にそう言う感情を抱いたことは一度もない。

それどころか、たっかしさんが言う通り、本当に心配していたかも怪しいよな。

脚色② 雪野大福

四宮さんの漬物壺に入っていたのは、漬物とは考えにくいですな。中に入っていたのは秘密にするに足る何か、人に言えない彼の負の側面の象徴ではないかと思うのです。結論から言うと、四宮さんが壺に込めたのは、呪いだった。

お二人は人文系の学部だと伺いました。今や漫画などでもよく出てきますから、そうでなくてもなら蠱毒と言う言葉は聞いたことがあるかもしれません。壺の中に毒を持つ害虫を入れ最後に生き残った一匹の毒を用いる、と言うものです。

思うにキムチさん、あなたは四宮さんとは、本当は仲は良くなかったんです。いや、四宮さんはあなたを友人とは思っていなかった。華奢で気弱な一人ぼっちの青年と、高校時代から少々ボディタッチの多い友人に囲まれた青年。まさに弱者と強者ですよ。今なら陰キャ陽キャ、とも呼ばれるのでしょうかな。少なくとも、キムチさんが四宮さんに感じていた友情とは別の鬱屈した感情が、四宮さんの中にあった。

話しを元に戻しましょうか。蠱毒とは、最後に残った一匹の毒を使って、人を殺すまでが蠱毒なのです。では誰がその標的だったのか。四宮さんが殺したかったのはキムチさん、貴方ですよ。そのために家に誘い、酒を飲ませた。毒を仕込む隙を作るために。

あなたは壺を開けなかったかも知れない。実際、開けなくて正解だったでしょうな。壺の中で互いに殺し合っている毒虫が貴方を襲ったでしょうから。

ただ貴方はそのまま酔いつぶれていたなら、きっと聞いたことでしょうな。カサ、カサとあなたに忍び寄る魔の手の音を。

 

――四宮が、毒で俺を殺そうとしていた?まさか、そんなはずない。ないと思いたい。

いや、あの大きさの壺なら蛇や毒蜘蛛が入っていてもおかしくないし、蓋を固く閉ざしていたことにも納得できる。

俺は、本当に四宮の友達だったのだろうか。

俺は、おれは・・・・

脚色③ たっかし

漬物ってさ、酒粕とか食塩に漬け込んで、できるだけ野菜を長持ちさせるものなんだよ。だとすれば入っていたものは、ずっと手元に置いておきたい、原型を崩したくなかったものなんじゃないか?

 

日本人が塩漬けにしてきたものの中に、生首ってのがある。戦国時代には敵の武将の首を、江戸時代には罪人の首を。本人確認をする方法が面相しかない時代だからな、当然と言えば当然だ。

壺に入っていたのは生首だよ、それも四宮の最愛の人のな。壺の大きさもちょうど合致する。

気弱な四宮にも高校時代に彼女がいた。気弱な彼氏を心配する、女傑だったとしようか。そして彼女は四宮を残して死んだが、彼女以外に何も持っていなかった四宮は、それを受け止めきれなかった。燃やしてしまえば一生美しい彼女を見ることは叶わない。だから、首を塩漬けにした。

ところが、大学に来てお前という友人を手に入れた。四宮は、彼女に見せたかったんだよ。自分の友人を。自分と遊んでくれる友人を。自分がもう一人じゃないってことを。四宮は、きっと彼女の首を今度こそ弔ったと思うぜ。

そして、お前からも離れていった。秘密に近づきすぎたキムチから逃げたかったのかもしれないし、今度キムチが死んでも首を塩漬けにはしまいという決意かもな。

そうかもしれないわね、魔●沙

それは、違う!

どうした、落ち着けよ。違うっても、脚色なんだから当たり前だろ。

そ、そうです、そうですよ。それにしても、僕好みの話じゃあなかったものですから。

選出

――俺の反応に、皆が目を丸くしている。

それでも、たっかしさんをすぐにでも黙らせないと、俺はそう追い込まれていた。

当のたっかしさんは訝しむような眼でこちらを見つめていた。

行燈に照らされたからか、俺に向けられた疑惑が表情に濃く浮かび上がっていた。

僕は助けを求めるように、暗闇に白い仮面を浮かべた黒装束の進行役を見た。

ふさわしい真相とは、その答えはとっくに決めていたのだ。

出揃いましたので、この「開かずの漬物壺」はどう語り継がれるべきか、むちむちキムチさんに決めていただきます。どうでしょうか、お気に召したのは?

はい、紅茶子さんの話がいいと思います。

あらやだ^~。キム×シノなの?シム×キムなの?

差しさわりがなければ理由を聞いてもいいですか?

なんだろうな・・・間違っても四宮は人を殺すような奴じゃないんです。それに俺からしてみれば、命よりも尻の穴を狙われてた方が恐かったんですよ・・・それに、ちょうどいいリアリティがあるというか、想像したら身の毛がよだったというか。

なるほど、それでは面白い恐怖体験を持ち込んでくれたむちむちキムチさん、ありがとうございました。

 

――終わった。なんとか潜り抜けた。

俺の勝ちだ。

 

いえいえ、とんでもない。それでこの話って島岡さんは記事にされるんですか?

それは、全員のが揃わないと決められませんね。

 

――それだけ言うと、島岡氏は全員に再び行燈をつけるように促す。

夜はまだ長い。残りの話は九つもあるという。

俺は、円形に座る全員をあらためてゆっくりと見回した。

 

次は誰だろうと高揚している者。

場の雰囲気に委縮されて委縮する者。

目を瞑り微動だにしない者。

ひっきりなしに自分の後ろを振り返る者。

そして、俺と同じように辺りを伺う者。

 

どんな話が聞けるのか、どんな尾ひれがつくのか。

まさか、俺の話に勝るものはないと思うが、それでもおかしなもので、俺はすでにこの場の虜になりつつあったのだ。