大したことのない話

脳みそに詰まったゴミを吐き出しておく場所

カタシロめいたTPRGリプレイ IN_CA■E 【完】3日目 ③

「お疲れ様、先生。ゆっくり休むといい」

部屋から出た私に、感謝の表情を浮かべた初老の男が手を差し出す。
私は力なくその手を握り返すが、まだ痺れが残っているのか実感が湧かないでいた。
どうにもこの結末でよいのかという、不安と言うか、釈然としないというか、モヤモヤとした不快感が私の胸中にあったからだ。

「これで、よかったんでしょうか」

思わず口から出た感想に、初老の男は笑い返す。

「全ての過程は公正に行われた。つまり、そうして得られた結果には何の問題もない。よって、結果の内容に君を含む我々全員が口をはさむ余地はないんだ。事実、あれこそが、彼の選択だと彼らも認めている」

そう言って、男は背後で話し合う4人の男女を見やる。

「いや、驚いたよ」
「無罪、無罪か。なるほどな」
「事後処理だけ、大変だろうが・・・」
「まさか長江の末、何も知らないまま終わりとは」

「少なくとも、君のおかげで我々は納得に足る一つの結論に至った。9か月もかかったが、決して無駄ではなかったよ」

そう言うと、男女の輪に初老の男も加わるべく歩き始める。
その背中に、私は問わずにはいられなかった。

「私は、あのシミュレーションで完璧だったのか、それだけが心配なんです」

立ち止まった初老の男は、振り返らずに話した。

「それは技術者としての性か、それとも人としての根源的な問かな?そもそも、正義への問いかけに完璧など存在しないと思うが・・・。まあ、君のためにも私の見解を述べておこう」

◆結果発表

確かに彼は、何も知らないでいることを選んだ。
当初我々が彼に知らせなければならないと定めた、彼が選ばれた理由も、彼自身の今の状態も、ジョコモとの関係も、彼自身は自覚するがなかったことを意味する。

つまり、一人の人間としての見解を述べたに過ぎない。
だが、その間にジョコモに触れ、こちらで用意した思考実験によって、何の考えもなしに答えを出したわけではない、というのは間違いない事実である。

「あんだけトラウマになってんだし、正直、そこまで責められる謂れないかな」
という彼の出した判決は、我々が重く受け止めるべき価値あるものだと、評価できる。




私はそれを聞き、少しは自分の仕事が果たされたのだろうと感じた。
いつも通りタイムカードを切り、同僚に後処理をお願いすると、いつもの道をトボトボと家に帰る。
パパ、パパ、とじゃれつく息子に道中に買ったガンダムのプラモデルをあげると、彼はたいそう喜んで自分の部屋へと走っていった。

1か月後、ジョコモは無罪判決を受けた。
このことは大いに世間をにぎわせたが、釈放後に彼が自宅で首を吊った姿で見つかったことで、この事件を取り扱うメディアは一つ、また一つと減っていった。

そうして、誰の記憶からも忘れ去られてしまった。

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